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永井孝尚『企業の現場で使えるビジネス戦略講座』(9月25日)

「成功は失敗のもと」の罠、どう回避?会長反対でも発売、あのヒット商品誕生秘話より考察

文=永井孝尚/オフィス永井代表
「成功は失敗のもと」の罠、どう回避?会長反対でも発売、あのヒット商品誕生秘話より考察の画像1筆者作成

 本稿の記事タイトルを見て、「あれ? 『失敗は成功のもと』の間違いじゃないの?」と思われたかもしれないが、そうではない。成功することは、失敗の要因になり得るのだ。

 成功はさまざまな要因が積み重なってもたらされるものだ。それは経験、スキル、顧客や市場の状況、運などといったものだ。加えて、成功は多くの失敗から学んだ結果でもあり、失敗の積み重ねから「成功の方程式」が編み出される。その意味では「失敗は成功のもと」だ。

 しかし、顧客や市場はどんどん変わる一方、人は成功体験をなかなか忘れることができない。ここに問題がある。つまり、「成功の方程式」の賞味期限が切れてしまうのだ。

 参考になる例がある。6月20日付日本経済新聞『私の履歴書』で、アサヒグループホールディングス相談役の福地茂雄氏が、社長から会長になった後のことを書いている。

「会長としての判断には間違いも多い。アサヒ飲料が缶コーヒーの『ワンダ』で『朝に飲むコーヒー』というコンセプトの商品を発売するという。私は『人間の味覚は朝鋭い。まずいコーヒーと言われたらどうするのか』と反対した。だがワンダはこの戦略が当たり、人気商品に成長した。

 01年に子会社化したニッカウヰスキーでは、創業者の名前である『竹鶴』をウイスキーの商品名につけるという。これも『創業者の名前をつけて売れるものだろうか。途中でやめるわけにはいかないし』と反対。これも読みが外れ、竹鶴ブランドは定着した。いずれも本気で反対したが、現場の強い意欲もあり、最後は押し切られた」

 あの大ヒット商品「ワンダ」や「竹鶴」が生まれる舞台裏で、実はトップの会長が反対していたという話は、とても興味深い。ここで福地氏が反対している理由を改めてよく読むと、次のとおりいずれもリスク回避判断である。

「まずいコーヒーと言われたらどうする?」
「創業者の名前をつけて途中でやめるわけにはいかない」

 ビジネスパーソンとして頂点を極めた福地氏は、まさに誰よりも多くの成功体験の持ち主だ。自身の成功体験があったからこそ、ブランドを守る大切さも熟知し、このような判断になったのだろう。しかし、アサヒの現場はトップの判断を押し切り、「ワンダ」「竹鶴」を世に送り出し、大ヒット商品に育て上げた。

 このエピソードが示唆することは大きい。常識や成功体験は、人を成長させ、成熟させてくれる。半面、常識や成功体験に過度に囚われ、「できること」「できないこと」を基準に判断するようになると、ブレイクスルーができなくなるのだ。

永井孝尚/ウォンツアンドバリュー株式会社代表

永井孝尚/ウォンツアンドバリュー株式会社代表

 マーケティング戦略アドバイザー。1984年に慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMに入社。マーケティングマネージャーとして事業戦略策定と実施を担当、さらに人材育成責任者として人材育成戦略策定と実施を担当し、同社ソフトウェア事業の成長を支える。2013年に日本IBMを退社して独立。マーケティング思考を日本に根付かせることを目的に、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表取締役に就任。専門用語を使わずにわかりやすい言葉でマーケティングの本質を伝えることをモットーとし、幅広い企業や団体へ年間数十件の講演やワークショップ研修を実施。さらに書籍・雑誌の執筆、メディア出演などで、より多くの人たちにマーケティングの面白さを伝え続けている。主な著書に、シリーズ累計60万部を突破した『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズ(全3巻、コミック版全3巻、図解版、文庫版)、『そうだ、星を売ろう』、『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』、『残業3時間を朝30分で片づける仕事術』(以上KADOKAWA)、『「戦略力」が身につく方法』(PHPビジネス新書)がある。最新著は『これ、いったいどうやったら売れるんですか? 身近な疑問からはじめるマーケティング』(SB新書)

・問い合わせ先:永井孝尚オフィシャルサイト

Twitter:@takahisanagai

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