「成功は失敗のもと」の罠、どう回避?会長反対でも発売、あのヒット商品誕生秘話より考察
本稿の記事タイトルを見て、「あれ? 『失敗は成功のもと』の間違いじゃないの?」と思われたかもしれないが、そうではない。成功することは、失敗の要因になり得るのだ。
成功はさまざまな要因が積み重なってもたらされるものだ。それは経験、スキル、顧客や市場の状況、運などといったものだ。加えて、成功は多くの失敗から学んだ結果でもあり、失敗の積み重ねから「成功の方程式」が編み出される。その意味では「失敗は成功のもと」だ。
しかし、顧客や市場はどんどん変わる一方、人は成功体験をなかなか忘れることができない。ここに問題がある。つまり、「成功の方程式」の賞味期限が切れてしまうのだ。
参考になる例がある。6月20日付日本経済新聞『私の履歴書』で、アサヒグループホールディングス相談役の福地茂雄氏が、社長から会長になった後のことを書いている。
「会長としての判断には間違いも多い。アサヒ飲料が缶コーヒーの『ワンダ』で『朝に飲むコーヒー』というコンセプトの商品を発売するという。私は『人間の味覚は朝鋭い。まずいコーヒーと言われたらどうするのか』と反対した。だがワンダはこの戦略が当たり、人気商品に成長した。
01年に子会社化したニッカウヰスキーでは、創業者の名前である『竹鶴』をウイスキーの商品名につけるという。これも『創業者の名前をつけて売れるものだろうか。途中でやめるわけにはいかないし』と反対。これも読みが外れ、竹鶴ブランドは定着した。いずれも本気で反対したが、現場の強い意欲もあり、最後は押し切られた」
あの大ヒット商品「ワンダ」や「竹鶴」が生まれる舞台裏で、実はトップの会長が反対していたという話は、とても興味深い。ここで福地氏が反対している理由を改めてよく読むと、次のとおりいずれもリスク回避判断である。
「まずいコーヒーと言われたらどうする?」
「創業者の名前をつけて途中でやめるわけにはいかない」
ビジネスパーソンとして頂点を極めた福地氏は、まさに誰よりも多くの成功体験の持ち主だ。自身の成功体験があったからこそ、ブランドを守る大切さも熟知し、このような判断になったのだろう。しかし、アサヒの現場はトップの判断を押し切り、「ワンダ」「竹鶴」を世に送り出し、大ヒット商品に育て上げた。
このエピソードが示唆することは大きい。常識や成功体験は、人を成長させ、成熟させてくれる。半面、常識や成功体験に過度に囚われ、「できること」「できないこと」を基準に判断するようになると、ブレイクスルーができなくなるのだ。