利益を上げるために「なんでもやる」人、変化に必死で抵抗する人~『マッサン』と経営者
ここで問題となるのは、(3)の「変化」に抵抗する人々です。自分の立場や自分の処遇、自らの人事を最も気にかけるサラリーマンといえるでしょう。彼らの口からは、変化させてはいけない理屈はたくさん出てきますが、変化させるためにどうしたらよいのかという前向きな意見はほとんど出てきません。(本連載第1回『企業はなぜ官僚化・硬直化する?どう診断?組織が社員に否定的発言を強制するメカニズム』に登場する「PNIの法則」を参照)
このように、「変化」に対する3つの反応はシンプルでとてもわかりやすいですから、自らの行動を反省したり、他人の主張を判断したりするときのメジャメント(指標、判断基準)として利用することができるのです。
●経営者のように行動する
いずれにせよ、自分が会社や組織の中でどのようなポジションにあろうとも、経営者としての3つの素養を持ち、経営者のように「変化」に反応することが大事なのはいうまでもありません。まずは、自分が今与えられている職責の中で、大いに経営者のように振る舞うのです。運よく自分の職務権限が広がったのなら、その拡大したテリトリーの中で、経営者のように行動するのです。
トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一氏は、「トヨタ生産方式の成長の過程は、私自身のトヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)内での責任範囲の拡大と合致していた」と語っています。
大野氏が本社の機械工場長の時は、その機械工場の範囲内で機械の配置を変え、多能工化を進め、JIT(ジャストインタイム)への挑戦を始めました。しかしながら、他の工場には手が付けられていません。本社工場の第二製造部長の時には、機械加工と組み立てという第二製造部の職責の範囲内でJITを推し進めました。その後、元町工場長のときには、機械加工、プレスと組み立ての範囲内でJITをやりました。鍛造と鋳造には手が付けられませんでした。ようやく、本社工場長になって、鍛造と鋳造を含めた全社的なJITができるようになったのです。
このような大野氏の取り組みを通して学べることは多いです。トヨタ生産方式の確立という「変化」を成し遂げるためには、10年から20数年という長い道のりがかかります。それでも、自分に与えられたテリトリーの範囲であれ、経営者のような素養をもってして、経営者のように行動することの大切さが伝わってくるのです。
本稿を含めてこれから3回ほど、本連載では会社や組織における個人としてのキャリアの築き方についてお話ししていきます。
(文=森秀明/itte design group Inc.社長兼CEO、経営コンサルタント)