教養の深さが情報処理能力を飛躍させる
–中でも、3章の「ヘンな意見にだまされない12カ条」は本書の見どころではないかと思います。
小林 元外交官の故・岡崎久彦氏は、著書『戦略的思考とは何か』(中央公論新社)の中で、インテリジェンスの基本に(1)客観性、(2)柔軟性、(3)専門性、(4)歴史的視点、の4つを挙げています。この4つの基本を踏まえた上で、私は以下の12カ条を提示しました。
1条:希望的観測の排除
2条:「情報の政治化」を避ける
3条:ハロー効果で目くらましされない
4条:硬直的な視野狭窄に陥らない
5条:自分の性格を自覚する
6条:バイアスを修正して受け取る
7条:美しすぎるウソに用心する
8条:根本が雑で枝葉が緻密な、バランスの悪い論理は危ない
9条:「少数の法則」にだまされない
10条:多数の予言
11条:多数の結果
12条:あいまいな予言
それぞれの内容については、本書の中に詳しく書いてあるので、ご参照いただければと思います。
–本書に「あらゆる情報は、コンテキスト(文脈)の中で位置づけてみないと、正確に意味がわからない」と書かれていますが、それには一般教養の有無もかかわってくると思います。欧米のエグゼクティブには、高度な一般教養が必須条件ともいわれていますが、日本ではいかがでしょうか?
小林 欧米のように必須条件といえるほどの土壌があるわけではないですが、教養の豊かなエグゼクティブは日本にもたくさんいます。例えば、ライフネット生命保険の出口治明会長兼CEOは読書家で知られていますが、特に歴史への造詣が深く、大変教養の豊かな方です。出口氏と話していると勉強になる上、とても楽しいです。教養の豊かな人はビジネススキルを持っているだけの人と違い、ストックされた教養によって情報を処理して思考を深めることができるので、どんどん新しい視点を持てるようになるのです。今は世の中の変化のスピードが速く、新しい事象が次々に発生するので、教養の力はますます大きくなっていくと思います。
–例えば、答えのない問題に対して最適解を見つける能力が求められるようになるのでしょうか?
小林 その通りです。その時、バックボーンとして教養が身についているかどうかが大きな差になるでしょう。
–情報収集・分析に関する専門書やノウハウ書は巷にあふれており、細かいテクニックを伝えるような書籍もあります。
小林 結局、ジャーナリストの池上彰氏や元外交官の佐藤優氏が言っているように、必要な情報の大半は公開されているものでカバーできるのです。その上で古典から学び、陰謀論を排除することがインテリジェンスを磨く基本だと思います。特殊な情報ルートを持っている場合、それを使うのもいいですが、普通は持っていません。さらに、そのルートに頼ると、情報の偏在化や情報操作の対象になってしまうといったリスクも伴います。やはり、基本に徹することがインテリジェンスを磨く一番の近道です。
–ありがとうございました。
(構成=編集部)