―円短期金融市場に隠された闇を暴く』
(幻冬舎ルネッサンス)
2012年夏、英国の金融中心地シティでは、LIBOR(ロンドン銀行間レート)の不正操作事件が発覚した。LIBORを簡単に説明すると、英国の各大手銀行が提示する金利の中心レートを基準金利と定め、LIBORという名称を付けたもの。各種の融資金利や金融商品の基準レートに使われている。
このLIBORを意図的に不正に操作し、複数の銀行関係者が利益を得ていたという事件で、BOE(英中央銀行)をはじめ、バークレイズ、UBS、RBSなど欧州の大手銀行から米シティグループ、ドイツ銀行などにまで飛び火した。
そして12年12月には、この件でついに逮捕者が出た。LIBORの不正操作に関わったとの疑惑を持たれている人物が、日本のメガバンクの子会社に勤務していたこともあり、日本の金融機関も巻き込まれている。
エディ・タカタ氏は、かつてLIBORも扱う自称“世界NO.1トレーダー”だった過去を持つ。エディというのは、本名ではなく、トレーダー仲間のニックネームのようなもので、本人は純粋な日本人だ。そのエディ・タカタ氏が出版した本で告発しているのは、LIBOR不正操作事件ではなく、TIBOR(東京銀行間レート)の不正操作だった。
エディ・タカタ氏は、大学卒業後の18年間を外資系金融機関に勤務し、年収が1億円を超えた時期もあり、「飲み物は最高級シャンパンと言われる高級ドン・ペリニオンだけのクリスマス・パーティーを開催したこともある」というほど、羽振りの良い人生を歩んでいた。そんな彼もあるトレードの失敗により、その世界を去ることになる。
彼の仕事であるトレードにはLIBORとTIBORが深く関わっており、12月のLIBOR不正操作事件の逮捕者の中にも、多くの仲間や知り合いがいたという。そして、エディ・タカタ氏の認識しているLIBOR不正操作事件とは、「一個人の利益のために、不正操作が継続的に行われていた事件」であるのに対して、TIBOR不正操作は、「日本の銀行特有の“護送船団方式”的な行為であり、TIBORを高く誘導することによって、住宅ローンなどで銀行の収益を恒常的に底上げしようとするもの」と、銀行が組織的に行ったものと推測している。
今年2月6日付の英「フィナンシャル・タイムズ」がこのエディ・タカタ氏の主張を紹介したことで、その存在は日本の銀行界で一躍注目を集めることになった。さらに、同氏が「TIBORの不正操作を告発する本を出版する」ということで、その内容が注目されていた。
実は、12年夏のLIBOR不正操作事件発覚の際に、TIBORに対しても同種の不正操作疑惑が囁かれたことがあり、金融庁の指示によりTIBORの金利を提示する国内の大手金融機関が調査を行っており、全国銀行協会が「TIBORについて不正はない」との報告を行っている。
もし、エディ・タカタ氏の告発本が、「具体的な証拠を示した上で、TIBORの不正操作を告発する内容であれば、金融庁も見て見ぬふりはできないだろう」(メガバンク関係者)との懸念が持たれていた。
しかし、実際の告発本の内容は、「TIBORの不正操作に関しては状況証拠だけで、不正操作の事実を指摘できるだけの確証がある証拠は、物的証拠を含めて出されていない」(同)というのが、日本の銀行関係者の一致した見方となっている。
政治家を志したこともあるというエディ・タカタ氏の告発本は、“大山鳴動してネズミ一匹”で終わるのか、それともその正義感から二の矢、三の矢が放たれ、さらに告発が継続するのかを引き続き注目してみたい。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)