「津波をかぶったパソコンのデータを抜くのに、120万円はかかると言われたんです。大事なデータが入っているので、なんとかしたい。でも……」
パソコンを使用していると、何かのきっかけでハードディスクが壊れてしまうことがあります。ハードディスクが壊れると、パソコンが起動しなくなったり、データへのアクセスができなくなります。そんなときの対処法として、日常的にバックアップをとっておくのがよいでしょう。頭ではわかりますが、つい忘れてしまうことがよくあるでしょう。
データのバックアップ先は、どこにしたらよいでしょうか。ひとつはオンラインの共有アプリがあります。この方法だと、オンラインでのサービスが終了しない限り、いつでもどこでも保存したデータを取り出すことができます。
その中でも、Dropboxはおすすめです。私は原稿のほとんどをこのサービス上に保存しています。また、Evernoteはテキストや写真、コピーしたファイルなどをオンライン上に保存できます。いずれも外出先では、iPhoneからもアクセスが可能なため、移動中でも原稿をチェックできます。
こうしたクラウドサービスには容量に限界があります。そこで、外付けのハードディスクを利用することになります。私は2011年3月に起きた東日本大震災の取材に際して、持ち運びが便利なMacBook Airを購入していました。メモリは2GBあります。しかし、写真や動画をたくさん撮っているために、早い段階で容量が限界を超えました。
●外付けハードディスクは便利だが……
そこで購入したのがI・O DATA(アイ・オー・データ)のHDPC-UT500RBでした。500GBのハードディスクでありながら、持ち運びも便利でした。さらにそこに保存したデータのバックアップのために、同じ形で色違いのHDPC-UT500WBを購入しました。これでバックアップ対策は万全だと思い込んでいました。
しかし、ある時からバックアップを取るのを忘れていました。悲劇はそんな時に起きたのです。ファイルへアクセスする時間が遅くなるという前兆があったにもかかわらず、気になるレベルではなかったために、特に対策を取っていませんでした。そして、データにアクセスできなくなりました。
このHDPC-UT500RBには、2年間の震災取材の元データが入っています。音声ファイル、写真、動画などが400GBほどありました。そのデータが一気に消えたのです。その時、バックアップのためのHDPC-UT500WBを見ると、最新の半年分がないことに気がつきました。
そこで、データを復旧する必要があったため、Mac用のデータ復旧ソフト「Data Rescue」を使って解析をしてみました。機械そのものが破損していない場合で、ファイルの破損やOSの不具合、ファイルの削除によってデータが消えたなどの「論理障害」の場合は、このソフトで復旧することができます。以前、震災取材で一定期間の写真を誤って削除したことがありました。そのデータを復旧させるために購入していたのです。
しかし、このソフトでは復旧できませんでした。つまり、ハードディスク自体に障害がある「物理障害」の可能性が出てきます。メディアがなんらかの理由でダメージを受けたのです。震災取材のときは常に持ち歩いていました。津波の被災地は道路が復旧していない道も車で通っていました。その際の振動やホコリなどはダメージを受ける原因にもなります。
●物理障害だと復旧に36万円?
原稿を書くのに必要だったデータがあったために、すぐに復旧させる必要がありました。そこでインターネットでデータ復旧会社を調べて見積もりをもらいに行きました。すると、その会社では「物理障害」と診断され、翌日までに復旧させると36万円、数日かかってもいいのなら28万円との見積もりが出ました。半年分の震災取材の元データです。考え方次第では、数十万円で取り返せると思えばいいのかもしれません。原稿を書くことで頭がいっぱいだった私は、そこでOKしてしまいました。
ただ、数十万円というのは納得がいきません。そこで、他のデータ復旧会社に電話をしてみました。相場を知りたかったのです。同じく30万円前後を示したのは他にも数社ありました。そのため、相場なのかもしれないと安心していましたが、4社目に電話したときに、その電話対応をした人が次のように言っていました。
「もしかして、それって銀座の某社ですか? 実は、あそこはぼったくりの疑いもあります。あなたのハードディスクの症状を聞くと、必ずしも物理障害ではないかもしれません。某社はたとえ論理障害だったとしても、すべて物理障害だと診断します。悪質であり、高額になる根拠です。物理障害だとしても、うちでは10万円くらいでできます」