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高齢化社会で生活習慣病による医療費が膨らみ続け、保険料増加のかたちで現役世代を直撃している。日本は国民皆保険制度になっているが、国民健康保険や中小企業の健保組合は崩壊寸前だ。対策は簡単だ。長生きする高齢者が健康で元気に暮らせるようにすればよい。
麻生太郎副総理兼財務相は4月、衆議院の予算委員会で次のように発言した。
「私は72歳だが、病院に行ったことはほとんどない。そうじゃない人って世の中にたくさんいるじゃない。飲みたいだけ飲んで、やりたいだけやっていい加減に生きて、それで72でくちゃくちゃになってる人がいっぱいいるでしょ。そういう人たちが病院で払っている医療費を俺が払ってる。俺が払ってるんだと思うと、なんとなくばかばかしくなってくる」
麻生氏は、総理大臣時代の2008年にも経済財政諮問会議で「たらたら飲んで、食べて、なにもしない人の分の金をなんで私が払うんだ」と発言して批判を浴びたことがあった。今回も当時と同じように、「努力して健康を保った人には保険料が還元されるような制度を導入すべき」という持論を改めて主張した。
思いやりに欠ける発言だと感じる人はいるだろう。確かに、国のリーダーの発言としてはいささか乱暴な部分はあるが、一面の真実があることも直視すべきである。
例えば、若い頃からのヘビースモーカーが、周囲の人や医者から「健康のためにやめたほうがいい」というアドバイスに耳を貸さず、ついに肺がんになったらどうだろう。がん治療には多額の医療費がかかる。本人も大変だが、大部分は保険料負担だ。タバコを吸わない人も、肺がん患者の医療費を負担させられるのである。
●5割は「運動せず、やる意思もない」
メタボリック症候群が心臓病や脳梗塞などの病気を引き起こす大きな原因の1つであることは論をまたない。厚生労働省健康局の資料によれば、09年度の国民医療費36兆67億円のうち、約32%は生活習慣病による医療費だ。糖尿病や高血圧、高脂血症といった生活習慣病の多くは、遺伝的素質があったとしても、若いときからの予防が大切であり、その努力をしていれば一定程度は発病を免れる。
ところが、新潟県で約2000人を対象にした調査結果では、生活習慣病予防に効果のある量の運動を実施している人は3割程度にすぎず、「運動をしていないし、やる意思もない」という人が5割を占めたという。健康を維持するためのささやかな努力すらする気がない人が多数なのだ。
08年4月からスタートしたメタボ検診義務化は、生活習慣病を減らして医療費を抑制する策の一環である。しかし、これはリスクの高い人を対象に絞り込んで対処することから、モグラ叩きで終わってしまう可能性もある。
●健康になるような街づくりの仕掛け
筑波大学大学院人間総合科学研究科の久野譜也教授は、“モグラ”そのものを減らす対策のほうが有効であると言う。つまり、対象を限定せず地域住民全体へ働きかけることで、地域全体のリスクを低減する取り組みだ。簡単にいえば、そこに住んでいるだけで気がつかないうちに「歩いてしまう、歩き続けてしまう」街づくりをしようということだ。運動する気のない人に運動と健康の重要性を説いてもムダであり、医療費を抑制するには、そういう人たちが知らず知らずのうちに運動して健康になってしまう仕組みが必要なのである。
久野教授は02年7月、健康増進分野では日本初の大学発ベンチャー、株式会社つくばウエルネスリサーチ(TWR)を設立。TWRは、住民が健康で元気に幸せに暮らせる新しい都市モデル「スマートウエルネスシティ(Smart Wellness City)」の推進を行っている。
ドイツのフライブルク市では、すでに43年前から中心市街地への車両制限を行い、“歩く”街づくりが行われているが、スマートウエルネスシティもこうした海外の成功事例や最新の研究成果に基づき実践される。“脱クルマ社会”の街づくりともいえよう。
自動車の流入を制限する地区をつくり、近隣の住民が歩くようになると、日常の身体活動量が増加する可能性が高い。地方都市の多くは中心市街地がシャッター街と化し、人通りが少ないという現状があるが、これを昔のような賑わいある街に戻すのも有効だ。また、最近では、美的景観の良い地域に住んでいる人やソーシャルキャピタル(社会的なつながり)が高い地域ほど健康度が高いなど、街の構造と健康の関係について、さまざまなデータも出てきている。
新潟県見附市を代表とする7市と2団体で国の総合特別区域に申請していた「健幸長寿社会を創造するスマートウエルネスシティ総合特区」が、一昨年の12月にその申請が認められた。
●毎日1万歩で年間8万円以上の医療費抑制効果?
健康維持によって医療費がどのくらい減るのか、具体的事例でもう少し詳しく説明しよう。