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過去の漫画、なぜ国内外で復刻相次ぐ?クールジャパンの世界進出に求められることは

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福田淳氏(左)と赤田祐一氏(右)
 経済産業省は、「クールジャパン」(アニメやゲーム、ファッションなどの日本文化)の世界市場を拡大し、2020年の海外売上高を最大17兆円と、2010年の約4倍に増やす目標を掲げ、300億円を投資してクールジャパン機構を設立するなど、政府主導でプロジェクトを推進している。

 今回は、『磯野家の謎』(東京サザエさん学会/彩図社)、『バトル・ロワイアル』(高見広春/太田出版)などを手がけた編集者・赤田祐一氏と、スマートフォン向けコンテンツを提供するソニー・デジタルエンタテインメント社長・福田淳氏の2人に、クールジャパンの中でも特に現代アートや漫画の文化について、語ってもらった。

福田淳氏(以下、福田) アメリカやヨーロッパから東京に来たアートコレクターが、日本の現代アート、例えば現代美術家・村上隆氏の作品などが一堂に見られる美術館がないことに驚いていました。「有名な画家の作品を自国内でじっくり鑑賞する設備がないなんて、世界的にも日本ぐらいだ」と言われました。しかし、ヨーロッパのアートコレクターが村上氏の作品をほとんど買い占めてしまっていることが一因のように感じます。

赤田祐一氏(以下、赤田) 横尾忠則氏の美術館も、開館したのは12年11月と、かなり最近ですね。

福田 そういうことも日本の一つの特徴かなとも思うのですが、自国の文化であるアート作品さえ保持できてないのはどうしてなのでしょうか?

赤田 村上氏の場合は、中野ブロードウェイに本人がプロデュースしたカフェがあり、そこでギャラリーを併設して、イベントなども開催しています。そういうスタイルで十分なのかもしれません。

福田 オリジナルではなく、リプリント【編註:複写、複製】が日本人には向いているのかもしれません。10年に国立国際美術館でルノワール展が開催され、その最終日は入館するために2時間待ちとなっていました。しかも、売店でポスターが飛ぶように売れていました。大判ポスターに安いフレームが付いているだけで3万円もする高額なポスターにもかかわらず、それが3万セット売れたらしいです。それだけで9億円もの売り上げです。

●再評価される谷岡ヤスジ

赤田 それはすごい。ルノワールと日本の現代アートを比べるわけではないですが、編集者・SF研究家の故大伴昌司氏の『怪獣ウルトラ図鑑』(秋田書店)もすごいと思います。私は、今でもシビレます。しかも、大伴さんの作品はわかりやすいです。デザイナーや写真家がネタ元としているといわれるナショナルジオグラフィック協会の公式雑誌「NATIONAL GEOGRAPHIC」に掲載されていた図解よりも、『怪獣ウルトラ図鑑』のほうがずっとよくできています。子どもにも理解できるわかりやすさで描いてあるのは、本当にすごいことだと思います。

福田 弊社は、大伴氏をはじめ、ギャグ漫画家の故谷岡ヤスジ氏の未発表原稿、漫画家・随筆家のつげ義春氏のデジタル権をお預かりしています。日本のコミックカルチャーの観点から考えても、すごい宝の山です。

赤田 すごいですね。谷岡氏の作品を全部預かっていらっしゃるんですか?

福田 はい。弊社がライセンスの窓口になっていまして、原稿管理もしています。大昔に描いた未発表原稿で、すごく面白い作品があります。それを今夏、Amazonのプリント・オン・デマンド【編註:受注生産型の書籍】から刊行する予定です。出版コードも持っていますので、PDF化すればKindleなどでも配信でき、オーダーすればエスプレッソ・ブック・マシン【編註:書籍を受注生産する機械】で1冊だけでも作製するサービスも始まっているので、それも利用することを考えています。

赤田 “谷岡モノ”にまた日を当てようというわけですね。

福田 そうですね。谷岡氏の作品にはキャラクター性やアート性もあるので、貴重な文化遺産だと思います。05年に三鷹市美術ギャラリーが「谷岡ヤスジ展」を開催したところ、美大生が多く押し寄せました。船橋競馬場のポスターの連作コーナーが人気で、「ビジュアルがすごく美しく、アートデザインとして素晴らしい」という評価でした。恐らく谷岡漫画を読んだこともないであろう美大生が、アートとして評価してくれたのが印象的でした。

赤田 私、「谷岡ヤスジ展」に行きましたし、パンフレットにも推薦文を書きました。谷岡氏には、1008ページもある『ギャグトピア』(白夜書房)という本があるのですが、それも愛読していました。読むと洗脳されます。

福田 ただライセンス権を抱えているだけでは宝の持ち腐れですから、作品を見せる機会をつくって、もっと若い世代に伝えるためのイベントなどを開催したいです。例えば銀座松屋の催事などを利用するのはどうでしょう?

赤田 現代日本アートの展覧会、いいじゃないですか。中学生ぐらいにもわかるようなテキストブックもつくるといいと思います。編集の組み立て方や、偉人伝みたいなものなどもいいですね。

福田 それ、いいですね。もう企画しましょう。

●エログロが名作を生み出すパワーとなった?

赤田 ところで漫画専門の古書店チェーン「まんだらけ」のカタログって、すごいと思うんです。クールジャパンのすべてがここに全部入っているといえるのではないでしょうか。こういうのを基にインデックスをつくったら、すばらしいものができると思います。アメリカのマニアが手塚治虫さんの本を復刻しているという話がありますが、日本にもそういう動きがあるんです。紙芝居作家であり、画家、彫師でもあった故梵天太郎氏は、芸能週刊誌「週刊明星」(集英社)に漫画をずっと描いていた人物です。つい先日、絶版漫画を復刻させてインターネット上で無料配信し、そこから得た広告収入を作家に還元する事業を行っている漫画家・赤松健氏が、同誌に連載されていた梵天氏の作品『混血児リカ』を復活させて話題になりました。

福田 インパクトのあるタイトルですね。

赤田 梵天氏の作品は、最近になって立て続けにいくつも復刻されています。

福田 いいタッチだし、面白いですね。

赤田 梵天氏は前近代的といいますか、「ドロドロ」というのはこういうことだと感じさせます。ただ、ヨーロッパやアメリカでは通じない気もします。紙芝居を描いていた人が無理やり劇画を描くから、相当強引なんです。

サブカルチャーは、エログロ【編註:エロティシズムとグロテスク】みたいなものも大事だと思うんです。梵天氏は、これまで特に名前が知られていませんでしたが、マニアが目を付けるようになって復刻に至りました。谷岡氏もエログロですよね。だから、あまりきれいに出しすぎないほうが伝わるように感じます。

福田 そうですね。日本の電子書籍の売り上げは85%がスマートフォン(スマホ)サイトでのものです。しかも、中身はBL(ボーイズラブ)・TL(ティーンズラブ)と呼ばれるエロ漫画なんです。こうした作品は、Amazonで流通する書籍やiBooks、kobo、Kindleなどの電子書籍ではなく、ほとんど会員制でクレジット課金のスマホサイト上で販売されています。今年、3000億円にも上ると予測される日本の電子書籍市場で、85%がエロです。だからエログロがいい悪いではなく、そこにあるパワーや物語を語る力強さみたいなものが、『巨人の星』や『あしたのジョー』(ともに講談社)を生み出したのではないでしょうか。

赤田 両作品の原作者である故梶原一騎氏は、コンプレックスがすごく強かったらしいですが、昔の作品の根底には、作者の欲望が大きかったということがあるのではないでしょうか。今は、その欲がどんどん弱くなっているから、どうしても作品もフラットなものになっていくような気がします。先日、漫画家の真崎守氏にお会いしたら、「日本の漫画は世界一つまらない」と言っていました。

福田 真崎氏の『キバの紋章』(朝日ソノラマ)、あの闇縛りのシーンを思い出しただけで、息が詰まりそうな気持ちになります。

赤田 あれは、まさにオウム真理教の世界です。

福田 あんなストーリーを考えて描くクリエイターが日本にいるというのは、すごいことだと思います。そういう日本文化のすごさを世界に発信することが、クールジャパンに求められているのではないでしょうか。
(構成=編集部)