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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第75回

“新聞業界のドン”が自らジャーナリズムの手足を縛った2つの裁判とは…

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 「Thinkstock」より
【前回までのあらすじ】
 業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていたが、もう一人の首席研究員、吉須晃人とともに、新聞業界のドン・太郎丸嘉一から呼び出され、大都、日亜両新聞社の社長を追放する算段を打ち明けられる。東日本大震災から2カ月を経て、太郎丸は計画を実行に移したが、狙い通りには進まない状況にあった。

「それはあるよ。でもな…」

 日本ジャーナリズム研究所首席研究員深井宣光の素早い反応に同僚の吉須晃人も即座に答えたものの、ニヤッとして、少し間を置いた。

「どっちにしろ、“押し紙裁判”がジャーナリズムを殺すトドメを刺したと思っているのは事実だからな。(太郎丸嘉一)会長の責任は万死に値するぜ」
「ジャーナリズムには、ある事象についてさまざまな見方や解釈を示す役割がある、それが吉須さんの持論でしたね」

 深井が合いの手を入れると、吉須は続けた。

「あの裁判の結果、立証できない『見方』や『解釈』は名誉棄損になるんだ。名誉棄損を訴えられれば敗訴する覚悟がないと、『うがった見方』など書けない。手足を縛ってしまったんだ。新聞が読まれなくなるのは当たり前なんだな…」

 吉須が“押し紙裁判”を起こした太郎丸会長の責任について話し始めた。この時、ボーイがテーブルに注文したピザを運んできた。

「吉須さん、もう一杯、飲みませんか」

 深井が生ビールを二杯注文すると、吉須はグラスに残ったビールを飲み干し、途切れた話の続きを語り出した。

「国民新聞みたいな大新聞が自ら名誉棄損で訴えれば、裁判官は過去に週刊誌の記事を巡る訴訟で確定した判例が新聞という表現者側も容認していると受け取るんだ。投網を投げるように名誉棄損に該当する範囲は広がる。そう思わんかね」
「裁判官っていう人種は世間知らずですからね。さまざまに事象についていろんな見方を語り合うのが人間社会の日常です。裁判所はちゃんと線引きしないといけないのに、それをしないから、言論の自由はどんどん制約される…」
「そういうこと。でも、会長はあの程度の写真で松野(弥介大都社長)や村尾(倫郎日亜社長)の不倫を立証できると思いこんでいる。自分が蒔いた種で、大都と日亜に訴えられれば、勝てないのにな。会長もぼけてきているんじゃないかと思わざるを得ないぜ。そう思わんか」
「ぼけているかはわかりませんが、年のせいか、唯我独尊になってはきていますね」

 ピザを摘んでいた深井が手を止め、感想めいた答えを漏らした。そして、ボーイが運んできた二杯目の生ビールを取り上げ、吉須にも勧めた。

「やはり、ビールは一口目がうまいです」

 深井はぐいっとやると、話題を変えた。