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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第75回

“新聞業界のドン”が自らジャーナリズムの手足を縛った2つの裁判とは…

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「“押し紙裁判”も万死に値しますが、もう一つ、国民新聞株の売買訴訟も忘れてはいけないと思います。あの最高裁判決で、新聞社の経営は身動きが取れなくなったんですから。これも、太郎丸さんの責任です」
「おい、深井君、ちょっと待てよ。新聞社経営史の研究をやっている君の心情はわからんではないけど、俺は全く正反対の評価をしているぜ」
「え、どうしてですか」

 吉須の意外な反応に、深井は驚いて聞き返した。

「俺はね、新聞社という会社を天然記念物的な組織に封じ込めたことはよかった、と思うんだ。展望なく袋小路に入っていくだけで、いずれは新聞社が消えてなくなる。その道筋をつける第一歩になったとね」
「吉須さん、そこまで絶望的な見方をすることないじゃないですか。いつぞやは『国民新聞はまだジャーナリズムの最後の一線を守っている』と認めていたでしょう」
「俺はな、日本じゃ新聞なんてなくなる方が世のため人のためだ、と心底、思っている。絶望的でも皮肉でもなんでもない。今度の一件ももしかしたらプラスになるんじゃないかと思っているくらいだ」
「え、今度の一件? 会長の“不倫暴露作戦”のことですか」
「そうだよ。大都と日亜が訴えれば、きっと勝訴する。そうなったら、社内はどうなると思うかね。白けムードがますます強くなり、今まで以上に秘密を共有する連中が跋扈し、出世したい奴はその共同体に入り込もうと躍起になるぜ。ジャーナリズムとしては完全に“死に体”になる。その意味で、暴露したことだけで十分なんだ」
「吉須さんはニヒリストだから…。でも、松野や村尾を追放できれば、局面は変わるかもしれないじゃないですか。追放できる可能性は極めて低いでしょうけど、会長がまだあきらめていない以上、結論を出すのは時期尚早のような気がしますけどね」
「俺はニヒリストでもなんでもないが、君さ、“悪貨は良貨を駆逐する”という言葉知っているだろう」

 吉須は笑いながら二杯目のビールを飲み干し、続けた。

「太郎丸さんがぼけ始めているから、国民の堕落も早いぞ。それを忘れるな。まあ、そういうことだから、そろそろ出ようや」

BusinessJournal編集部

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