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田中洋「マーケティングのキーインサイト」

「VWが不正でブランド価値1兆円毀損」とは、何をどう考えればよいのか?

文=田中洋/中央大学ビジネススクール教授

 このように、もともとブランド能力が問題になっていたとき、ブランド意図も同時に問題になることが少なくないのです。現在起こっているVWの問題も、おそらくはこの2つの信頼が同時に揺らいでいるというのが本質でしょう。

ブランドへの信頼を保つには

 それでは私たちはどのようにしてブランドへの信頼を維持し、向上させることができるのでしょうか。

 松下電器産業(現パナソニック)は、05年に同社製のFF式石油暖房機事故によって2名が死亡、数名が重傷ないし軽傷を負う痛ましい事故がありました。この事故に対する松下電器の対応は徹底したものでした。

 対策本部を早い時期に立ち上げただけでなく、「事故の再発を許せば明日の松下電器はない」(中村邦夫社長通達)、「草の根を分けてもすべての製品の回収を目指します」(林義孝専務)などの言葉に見られるように、その対応には目を見張るものがありました。

 回収対象機器を5 万円で引き取ることを発表し、徹底的に該当暖房機を探し出すローラー作戦を展開しました。コミュニケーションの面でも多くのコストを費やし、テレビ放映4万2000本、チラシ6億9000万枚を配布、回収にかけた費用は249億円にも上ったのです。

 こうした徹底した対応と対策は社会的にも評価されました。ある新聞記者は松下電器の対応についてインタビューで次のように語っています。

「FF事故後の対応は評価できる。理由は個別の原因ではなくて、あの状況におかれた企業としては、ベストな対応だったと考えるから。やれることを全てやり、説明責任を果たした」(「コーポレート・コミュニケーションによるレピュテーションの構築とその限界:松下電器産業の事例から」より)

 この結果、松下電器の意図に関するブランド評価は大きくは下がらず、むしろ強化されたかもしれません。

 この05年の松下電器の事件と00年の雪印乳業の事件を対比させると、ブランドへの信頼をどのように維持・向上させるかについてヒントが見えてきます。

ブランド意図への信頼がポイント

 ブランドの価値を毀損させる事件は、もともとブランドの能力に基づくきっかけが多いのです。松下電器の事件でも、安全管理について同社の管理が十分でなかったといえます。

 しかし、問題はその後です。ブランド能力への信頼はすでに述べたように、完全には失われにくいため、ブランド意図への信頼を損なわないように行動すべきなのです。

田中洋/中央大学ビジネススクール教授

田中洋/中央大学ビジネススクール教授

京都大学博士(経済学)
日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。
1975~1996 21年間、㈱電通勤務。
1996~1998 城西大学経済学部助教授
1998~2008 法政大学経営学部教授
2003・4年度コロンビア大学ビジネススクール客員研究員
2008~2022 中央大学ビジネススクール教授
2022~ 中央大学名誉教授
元・東証一部上場・ソウルドアウト株式会社社外取締役
関心領域:マーケティング論・ブランド論・広告論
田中洋 中央大学ビジネススクール教授のオフィシャルサイト

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