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筈井利人「一刀両断エコノミクス」

米国、規制で自国企業に巨額利益…「薬価55倍へ引き上げ=市場原理主義」批判のデタラメ

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「Thinkstock」より
 米国の製薬会社が今年、エイズやがんなどで免疫力が低下している人の治療に使われる薬剤の価格を一気に約55倍に値上げし、激しく批判された。米国内でも日本など国外でも、この製薬会社の恥ずべき行為や米国での全般的な薬価高騰は「米国に蔓延する市場原理主義がもたらしたもの」とする見方が多い。

 しかし、それは本当だろうか。

 批判を受けたのは、元ヘッジファンドマネージャーのマーティン・シュクレリ氏が経営する新興製薬会社、チューリング・ファーマシューティカルズ。同社は8月、「ダラプリム」という62年前に開発された感染症治療薬の権利を買い取り、その価格を1錠13.50ドル(約1600円)から750ドル(約9万円)へとつり上げた。命にかかわる病の薬を突然大幅に値上げしたことで、米国では怒りの声が巻き起こった。まだ30代のシュクレリ氏が動画で値上げの理由を軽い口調で説明したことも、火に油を注いだ。

 次期大統領選の民主党本命候補、ヒラリー・クリントン前国務長官はこの騒動に乗じ、高騰する薬価に対応するためとして、医療保険の加入者が処方箋薬に払う薬代の上限を月額250ドル(約3万円)に制限する規制案を9月に発表した。
 
 米国内外では、シュクレリ氏の行為は市場原理主義の象徴であると受け止める向きが多い。また、米国では薬価が全般に高騰しているが、これは政府が薬価を決める日本などと違い、製薬会社が自由に価格を設定することが原因だとして、やはり市場原理主義が批判の的とされている。

米国=市場原理主義支配という幻想


 しかし、薬価の高騰は本当に市場原理主義が原因なのだろうか。

 米ジョージ・メイソン大学の経済学教授、アレックス・タバロック氏によると、インドでは、約9万円に大幅値上げされたダラプリムと同じ有効成分で低価格なジェネリック医薬品(後発薬)が売られている。値段は1錠あたり米ドル換算でわずか5セント(約6円)という。

 インドのジェネリック医薬品には、品質面に問題があるとの意見もある。だがこの薬の場合、欧州でも広く販売されている。今回の騒動についてタバロック教授は、「欧州で認可されたジェネリック医薬品の輸入をすべて認め、米国で販売しさえすればよい話」と指摘する。

 ところが実際には、米国では政府の規制により、国内で認可されないかぎり外国製医薬品の輸入は認められない。たとえそれが、今回のケースのように、米国ですでに認可・販売されている医薬品と実質同じジェネリック医薬品だとしてもである。