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ツタヤ図書館、税金でカフェ設置し本を片隅へ…巨額改修に違法の疑いで市民が提訴!

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
ツタヤ図書館、税金でカフェ設置し本を片隅へ…巨額改修に違法の疑いで市民が提訴!の画像1海老名市長を訴えた訴状

「うわ、盗用?」

 昨年12月26日のこと。通称「ツタヤ図書館」、神奈川県海老名市立中央図書館の公式サイトに掲載されたお正月イベント告知ページが、ほかのホームページと酷似しているとの指摘がツイートされた。

 和凧やダルマ落とし、けん玉など、正月遊びグッズを展示したイベントのイメージ画像は、誰が見ても、それらの用品を販売している会社のものとそっくりだ。さらにイベント告知文も、正月遊びに関する別の解説記事を、ほぼそのまま引用した文章であることが判明し、「あからさまな盗用ではないか」との批判が瞬く間にインターネット上を駆け巡った。

 ほどなくして、問題の画像と文章は図書館公式サイトから削除された。翌日には、同図書館の指定管理者で運営を担当するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が館長名で、無断転用の事実を認めて公式に謝罪する事態になった。

 ところがそれで一件落着とはいかず、「(担当者が)何も考えずに使ってしまった」との運営者側の釈明に対して「画像のクレジットを消す細工をした悪質な盗用」「何も考えずに盗むのか」といった厳しい非難が殺到し、ネット上ではツタヤ図書館関連のページが軒並み炎上状態に陥った。

 この騒動によって「著作権について十分に配慮すべき立場にある公共図書館が著作権侵害を犯すなんて酷い」という嘆きの声だけでなく、「そもそもCCCに図書館を任せたのが間違い」などと、あらためてツタヤ図書館への批判が勢いを増した。

 海老名市立図書館については、その2日前のクリスマスイブ、関係者たちの間に激震が走ったばかりだった。

 市民2人が海老名市長に対して、市立図書館の運営に関して同館の指定管理者であるCCCとの基本協定を解除することや、市がこれまでに負担した不当な費用を返還させることを求める訴訟を横浜地方裁判所に起こしたのである。

 CCCが2013年4月から指定管理者となって図書館を運営している佐賀県武雄市でも、昨年7月に同じような訴訟を市民団体から起こされている。つまり、「画期的」と称賛された公設民営図書館が、2例とも法廷の場でその是非が問われることとなったのだ。

訴訟の具体的主張

 では、提訴した市民らはどのような主張をしているのだろうか。訴状を基にまとめておきたい。

 今回、海老名市長を提訴した市民側の主張は、第1に、海老名市が行った図書館の指定管理そのものに大きな瑕疵(欠陥)があること。

 現行の指定管理者制度において、民間企業に公の施設の管理運営を任せることができるのは、設置目的を効果的に達成することができるときに限るとされている。ところが海老名市は、中央図書館の設置目的を効果的に達成する内容となっていない協定を締結した。それが違法だというのである。具体的には、以下のような内容が挙げられている。

「被告(海老名市長)は中央図書館の改修にあたり、CCCに提案から設計並びに施工監理まで行わせ、1階をCCCのためにマガジンストリート、カフェに使用させて税金を使って海老名市の貴重な財産をCCCの思い通りの施設に改修させた。その結果、1社独占で営業活動をさせて、半ば永遠に継続されるように中央図書館の改修はCCCのために行ったものであり図書館の目的の妨害である」

 ツタヤ流「ブックカフェ」というハコモノに多額の税金が投入されていることの不当性をそう指摘したうえで、肝心の公共図書館としての機能についても次のように断罪している。

「来館者の増加目的であるにしても、営利企業であるCCCに管理を託して、CCCは市民の目を引く装飾書架、販売促進のための配置、Tカードの導入、来訪者数や物販の商業施設に重点を置くことは、社会教育機関として使命の放棄、図書館の理念を無視しているものである」

利用しづらい図書館

 本論はここからだ。市民側の2番目の主張は、CCCが市立図書館という公の施設管理者としては不適格であるということ。具体的には、以下のような点を挙げている。

「中央図書館を目的外使用して他社にコーヒー店・書店を運営させ、これを中心にして来訪者数や店舗の売り上げに関心をもち、図書館の社会教育機関施設の使命をおろそかにして、蔵書を部屋の片隅に追いやり、書籍は人の手の届かない高い書架や床面に配架し、また、独自の図書配列をし、資料収集や奉仕活動等の大切な業務を蔑にしている。市立の2図書館において書籍の異なった配列、分類をするなど利用者の利便を無視して、市民の利用方法及び利用の権利を妨げている」

 CCCによる図書館運営の問題点をそう指摘したうえで、さらに同社が起こした不祥事についても、こう厳しく切り込んでいる。

「図書館の選書は自由で自律的に行われるべきであるが、CCCはそれを阻害して選書の実態は十数年前の書籍や偏った分野の書籍、公序良俗に反するもの等があり、CCCの自社在庫整理のための選書である。また、図書や資料の除籍(廃棄)を一方的な判断で行い、市の貴重な財産や資料が処分され失われていることは、図書館の目的に反する行為である」

 多くの人が漠然とした不安を抱いているTカード問題についても、こう糾弾している。

「海老名市立図書館でCCCがTカードを図書貸出に使用することは、海老名市立図書館を利用して会員拡大のための営業活動を行うことで、海老名市立図書館利用者の個人情報が企業活動に使われることになり、個人情報管理に違反し、かつ法令に違反する」

 このような不適格な事業者を指定管理者に指定した場合、市立図書館の設置目的を効率的に達成することはできない。よって市がCCCとの間に締結した基本協定を解約せよというわけだ。

不当にCCCの便宜を図っている?

 3番目に、中央図書館に目的外使用をさせていることの違法性である。目的外使用とは、図書館の建物の中にカフェや書店を併設させて、営業させることを指す。

 市民側は、「許可は図書館利用者への便宜ではなく、CCCに営業場所の供与」としたうえで、「その使用料が1平方メートル当たり年額6458円(月額538円)」は著しく安く、周辺相場の1平方メートル当たり月額2500円から換算すると「被告は市に対して月々106万2756円以上の損害を与えている」と指摘している。

 さらに「CCCは公共図書館という知名度、信用度を活用して営利を目的とする企業活動を展開し、宣伝効果による収益向上を図り、被告はこれを支援し便宜供与したものである。中央図書館の目的外使用の許可により、次の通り図書館施設としての用途および目的を妨げている」と、以下のような内容を列挙している。

・中央図書館の中心となる1階の有効面積の90%以上を目的外使用させているが、これは図書館の存在にかかわる重大な妨害行為である。

・図書館本来の目的である書籍の配架展示の場所を狭めてしまい、その結果天井高く書架を設置したり、地域の貴重な資料を廃棄するなどして図書館としての機能、利用を著しく阻害している。

・企業の商業施設に使用して公の施設たる図書館の記録その他の資料、郷土資料、近隣自治体図書館との連携、調査研究資料、読書会がなくなり市民の利用を阻害している。

 つまり市民側は、CCCによるカフェ及び書店への目的外使用は、不当に企業側の営業活動の便宜を図っているだけで、公共図書館の機能を著しく阻害する結果になっているため、目的外使用許可を取り消せ、と主張しているのである。

 訴状では、このほかにも、指定管理料のずさんな経理の違法性や、中央図書館改修費支出の違法性なども挙げている。後者については、「その改修の50%以上はCCCの目的外使用の使い勝手の良いようになされた。大改修費用10億5509万7360円のうち5億円はCCCのために改修したといえるため、違法な支出である」としている。

5億9000万円余りを返還請求

 以上のことから、この訴訟においては指定管理者となっているCCCとTRC(図書館流通センター)の共同事業体との管理運営における協定の取消、不当な目的外使用の取消、さらにはそれらによって市が被った損害額として、改修費のうち違法な支出5億円、2014年度分の指定管理料のうち過剰な支出9000万円など、合計5億9052万6000円の返還を海老名市長に求めているのである。新聞報道では、市に対して企業側に損害額の返還請求することを求めたとされていたが、正しくは海老名市長に対して損害額を市に返還せよと求めている。

 市民側の代表である就職カウンセラーの男性は筆者の取材に対して、提訴に至るまでのやむにやまれぬ気持ちをこう語った。

「館長自ら『ど素人でした』と言っているように、CCCは図書館運営のノウハウなど最初から持ち合わせておらず、武雄、海老名と、まさに彼らの実験台にされたのです。もともと海老名の中央図書館はとても使い勝手がよく、適切なレファレンスも受けられる快適な図書館でした。それが公共性のないブックカフェになってしまいました。そんなものに巨額の税金が投入されることに我慢ならず、提訴に踏み切りました。

 (提訴のニュースが実名で)報道されたおかげで、買い物に行くと顔見知りの人から『がんばれよ』という声をかけていただいたりします。『今の図書館おかしい』『なんとかしてもらいたい』という声を方々から聞きます。そういう点では、今後市民のみなさんから意見を書いていただいて裁判所に提出しようかと思っているところです」

 本訴訟について海老名市長サイドは、「まだ訴状が届いていないので、この段階でのコメントは差し控えさせていただきたい」(1月5日現在)としており、法廷でどのような議論が展開されるのか、大いに注目されるところである。

 ちなみに、訴訟の経過は提訴した市民男性が開設している「ナムラーのブログ」を参照いただきたい。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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