「情熱ペイ」という言葉をご存じだろうか。
仕事をして経験を積みたいと考える若者たちの「情熱」を利用して、最低賃金にも満たない報酬や、ひどい場合には無給で働かせる韓国の労働慣習を指す。
この言葉が多くの人に知られるきっかけとなったのは2014年10月、有名ファッションデザイナー事務所の給与の実情をインターネット上に暴露する書き込みがあり、それがソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を通じて拡大して韓国国内で話題になった出来事だった。
その書き込みによると、給与額は見習いが月10万ウォン(約1万円)、インターンは月30万ウォン(約3万円)、正社員は月110~130万ウォン(約11~13万円)だという。しかも、勤務時間は平日午前9時から午後8時までで、時期によっては平日夜10時までの残業と土曜勤務が義務付けられるが、上記の金額以外に残業代は支払われないという、あまりに酷な条件だった。
正社員の給与も労働法に違反しており、見習いとインターンに至ってはまるで“お小遣い”のような額だ。
この出来事で情熱ペイが本格的に社会問題として認識されるようになったが、実はその前からも「仕事をすることで経験になる」という理由で、若者をほぼ無給で働かせることは多くあった。なぜ韓国は若者を搾取する社会になってしまったのか。
この事態を招いたのは、「インターンシップ」という魔法の言葉である。本来、インターンシップは就職しようとする企業の現場を見て、実際に仕事を体験する制度で、主な対象は学生だ。目的が「教育」なら、無給であっても仕方ない。しかし、韓国におけるインターンシップは本来の趣旨から外れ、なんの教育目的もなしに無給で労働させる制度に変質してしまった。
国家機関もインターンシップを悪用
こうした現象は、ファッション業界のような特殊な業種だけの問題ではない。なんと、誰よりも法律を守る義務があるはずの国家機関も、インターンシップを悪用していることが判明した。
14年10月、モントリオール大韓民国総領事館が、無給という条件で募集したインターンの業務内容は、「広報業務の支援、資料収集及び報告書作成、通訳や翻訳など」となっており、本来職員が仕事としてこなす業務だ。
このように韓国では、民間企業のみならず国家機関までもが、若者に仕事の機会を与えることを言い訳に低賃金もしくは無給でインターンを雇って仕事をさせている。