日本銀行は先月、国内初となるマイナス金利の導入に踏み切った。その狙いは、日銀が目標に掲げながらいっこうに達成できずにいる、デフレ脱却である。黒田東彦日銀総裁は、マイナス金利により住宅ローンなどの貸出金利が下がっており、その効果が「今後、実体経済や物価に表れてくる」(2月16日の衆院予算委員会)と脱デフレに自信を見せる。
しかし、ここで今さらながら考えてみたい。デフレとは、物価全般が持続的に下がることである。それは経済や社会にとって本当に害悪なのだろうか。じつは「デフレは悪」という主張は、論理的にも、歴史的にも、確たる裏づけに乏しい。
よくあるデフレ批判は、「デフレになると企業の収入が減って業績が悪化し、不況になる」というものである。
しかし、少し考えてみればこれはおかしい。デフレで商品の値段が下がっても、販売数量がそれ以上に増えれば、収入は減らない。むしろ多くの企業は、大衆により安く、より多くの商品やサービスを販売することによって成長する。衣料チェーン「ユニクロ」のファーストリテイリングや家具のニトリは、そうした成長企業の代名詞である。
一歩譲って、かりに商品の値下がりを販売数量の伸びで補いきれず、収入が減ったとしても、それだけで業績が苦しくなるとはいえない。企業が儲かるか損をするかは、収入だけで決まるのではなく、収入と費用との差で決まるものだからである。
物価全般が下落しているのであれば、収入だけでなく、費用も減るはずである。とくに企業間の取引の場合、ある会社の収入は別の会社の費用なのだから、一方だけが減るはずはない。収入と費用がそれぞれ同程度だけ減るのであれば、業績は悪化しない。
特定の業種や個々の企業によっては、収入が大幅に減少する割に費用はあまり減らず、経営が苦しくなるケースもあるだろう。しかし、それはすべての企業にあてはまるわけではないから、デフレを非難する理由にはならない。
別のデフレ批判は、上記の説明に対し「費用のうち、人件費はすぐには減らせないから、やはり企業業績の悪化につながる」と反論する。しかし、人件費が減りにくい大きな要因は、最低賃金や解雇制限といった政府の労働規制であり、デフレが悪いのではない。