デフレが不況をもたらすという誤解
もうひとつのデフレ批判によれば、商品の値段が下がり続けると、人々は将来も値下がりが続くだろうと予想し、もっと安くなるまで買い控えるようになるため、商品がますます売れなくなり、不況になるという。この悪循環は「デフレスパイラル」と呼ばれる。
だが、こんなことは実際にはない。慶應義塾大学大学院准教授の小幡績氏は、次のように指摘する。
「消費者は必要なもの、欲しいものを値下がりするからといって10年も待ち続けることはない。せいぜい、バーゲンになったら買おうと衣料品を数カ月我慢するだけのことだ。(中略)物価の継続的な下落により消費を先送りしている消費者は存在しない。デフレスパイラルは存在しないのだ」(『円高・デフレが日本を救う』<ディスカヴァー・トゥエンティワン>より)
確かに、人は将来の価格を予測する際、過去の価格の動きを判断の参考にする。しかし、それはあくまで、さまざまな要素のうちのひとつにすぎない。過去に商品の値下がりが続いたからといって、今後もそれが続くと信じなければならない理由はない。
デフレは不況をもたらし、経済の成長を妨げるという主張は、歴史的な事実にも反している。
米ミネアポリス連銀のエコノミスト、アンドリュー・アトキンソンとパトリック・キホーは2004年の論文で、米英独仏日など17カ国を対象にデフレと不況の関係を調べた。各国について少なくとも100年間のデータを集め分析したところ、1930年代米国の大恐慌ではデフレと不況の間に緩やかな関連らしきものが見られたが、そのほかについてはデフレ期の90%近くが不況でなかった。
著者たちは「データを見る限り、デフレと不況の間にはほとんど何の関係もない」と結論づけている。
金融緩和の副作用
国際決済銀行(BIS)も昨年3月に発表した報告書で、デフレと経済成長の関連は弱いと結論づけた。
それによると、調査対象の38カ国・地域が第二次世界大戦後に経験した短期的なデフレ期間は合計で100年間余りに相当するが、こうした期間の成長率は平均3.2%と、それ以外の期間の同2.7%より高かった。デフレで経済成長率が大きく低下したのは、やはり米国の大恐慌時だけだったという。