2015年7月に発表された厚生労働省の調査によると、14年の日本人の平均寿命は女性86.83歳、男性80.50歳で、ともに過去最高を更新した。女性は3年連続の世界一で、男性も4位から3位に順位を上げるなど、日本が世界有数の長寿国であることが、あらためて証明されたかたちだ。
一方、「健康寿命」についてはどうだろうか。“生存期間”である平均寿命に対して、健康寿命は“自立した生活ができる生存期間”を指す。同じく厚労省の発表によると、13年の健康寿命の平均は、女性74.21歳、男性71.19歳となっている。調査期間が1年ずれているものの、平均寿命と健康寿命を比べると、女性で約12年、男性も約9年の差がある。
日本体育学会が1983年に発表した標語に「ピンピンコロリ」というものがある。これは、「病気などで苦しまず、元気に長生きして、コロリと死のう」という意味だが、実際は、亡くなるまでに介護を必要とする期間が10年前後も存在することになる。
平均寿命と健康寿命の間には、なぜこれほどの差が生じてしまうのだろうか。高齢社会研究の第一人者である村田裕之氏に話を聞いた。
要介護の原因となる「脳卒中」「認知症」「衰弱」
まず、介護や支援が必要になる原因疾患のほとんどは、生活習慣に起因するという。
「要介護になる原因は、割合の高い順に『脳卒中』『認知症』『高齢による衰弱』となっています。『脳卒中』は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などに分かれますが、食生活の偏りや喫煙、過剰な飲酒などの不摂生による生活習慣によって引き起こされます。
『認知症』についても、半数はアルツハイマー病ですが、約3割は脳血管性障害が原因です。『高齢による衰弱』は、運動をしなくなることで筋肉が固くなり、衰えて動けなくなるものです。宇宙飛行士が宇宙に長く滞在して地球に帰ってくると、1カ月くらいは正常に歩けなくなりますが、それと同じ状態です。
また、要支援の原因トップである『関節疾患』は、膝や腰に痛みなどが生じて、思うように体を動かせなくなるというものです。これらが、介護や支援が必要になる原因の約75%を占めています」(村田氏)
大きく分類すると、要介護になる原因部位は「脳」と「運動器」の2つだ。これらのメンテナンスをきちんとするか否かが、平均寿命と健康寿命の差につながっているという。
「高齢による衰弱は仕方ないですが、脳や運動器の疾患のほとんどは、食生活の改善や運動不足の解消など生活習慣の見直しという自助努力で予防できます。とはいえ、高齢になると自助努力をしなくなるケースが多いです。体のあちこちが痛むため、動くのが面倒になり、外出の機会が減る。そして、家の中にいる時間が長くなり、慢性的な運動不足になってしまう、という流れです」(同)