トヨタ自動車グループの企業で昨夏、悪質なセクハラが行われていた。愛知県安城市にあるトヨタ系の部品メーカーであるアイシン・エィ・ダブリュの40代幹部社員が、入社を希望する20代の元女子学生に対して、採用の見返りに不適切な関係を迫ったという。
報道によると、この幹部社員は「合格ラインに達していなかったが、自分の力で筆記試験を通した」などと発言した上で食事に誘い、その後もメールやLINEで連絡を取り関係を迫った。これを女性が断ると、「うちの会社には絶対に内定させない」といったメールが送られ、実際に不採用になってしまったという。
3月25日、女性は幹部社員と同社に対して慰謝料の支払いを求める損害賠償訴訟を提起した。すでにこの幹部社員は処分され退社しているという。労働問題に詳しい浅野総合法律事務所の浅野英之弁護士は、次のように採用の場面でのセクハラ問題に警鐘を鳴らす。
「面接官が一方的に質問しても、就職活動生は明るく丁寧に応対します。そのため面接官は、就活生が自由な意思に基づいて、好意的な応対をしていると勘違いしがちです。しかし、採用の可否を判断する権限がある面接官に対し、採用を獲得したいがために内心嫌悪感を抱きながらも従っていたとすれば、面接官に悪気がなくてもセクハラを犯していたと認定されるおそれがあります」
就活の場合、経営者や人事労務・総務担当者は人事権を握っていることから、就活生に対して強い権限を持っているといえる。そのため、採用を見返りとした対価型セクハラの温床となりやすい。会社としては、どのようなケースを想定して注意するべきなのか。
「『この後、食事に行けますか?』『今週の土日は何をしていますか?』といった、プライベートな予定を尋ねる行為は危険です。日時を特定して予定を聞くことは、採用の可否を決めるにあたっては不必要ですし、事実上個人的なデートに誘う示唆を含む発言であると評価されかねません。また、OB訪問、事前面接等と告げ、個室に誘い込む行為もセクハラと評価されるおそれが高いです」(同)
会社としては、社員と学生の個人的な問題として片付けたいところかもしれないが、そう甘くはない。労働審判、訴訟等に紛争が拡大すれば、会社に不利な判断が下る可能性が高いという。