5月26日付当サイト記事『新ツタヤ図書館でまた重大問題発覚!中古本を大量一括購入、本をただのインテリア扱い』、5月30日付記事『ツタヤ図書館、CCC系列店から古い実用書等のクズ本を大量購入!異常な高値でも大量購入』において、3月21日に新装開館した宮城県・多賀城市立図書館が追加蔵書を購入するにあたって作成された選書リストを入手し、その問題点について指摘した。
多賀城市教育委員会に提出された選書リストの冊数は、合計3万5000冊。そのうち、少なくとも1万3000冊が「中古」と明記されている。そのリストから、市場価値が極端に低い中古本を購入していたことが明らかになった。昨年、多賀城市と同じくカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が指定管理者となって運営する佐賀県武雄市図書館と同様に、「不適切な選書問題」が再び起きていたのだ。
多賀城市教委によれば、今回3万5000冊にも及ぶ追加蔵書購入に充てた予算は5250万円である。1冊当たりに換算すると1500円だ。すべて新刊書とした場合、予算的には少し厳しい額だが、ブッカー(ブックカバー)やバーコードなどの装備費用については別予算(1冊当たり211円、総額738万5000円)となっており、純粋に書籍代のみで5250万円用意された。
では、新本と中古の割合や、それぞれの単価はいくらと想定されていたのだろうか。
筆者の取材に対して市教委は、「予算請求の段階では、中古と新本の内訳はなかった」と回答していたが、情報開示請求したところ詳細が判明した。
下の表をみてほしい。これは、市教委が2015年1月6日、CCCから図書館移転準備業務について見積書を提示されたときの添付書類である。
これをみると、1冊当たりの平均価格は、新品が2000円、中古が1000円と明記されている。それぞれの冊数については、新品、中古ともに1万7500冊ずつの購入を予定していたことがわかる。実際に購入した中古本は全体の約3分の1だったが、昨年1月の時点では半数を中古で仕入れる計画だったのだ。
その見積もりに合わせて、購入予算額は新品が3500万円、中古が1750万円、計5250万円となったと推測できる。
先の記事で紹介したように、最終的にCCCサイドが提出した選書リスト中の古本は1万3000冊で、そのうち3分の1に当たる4400冊は刊行から5年以上経過したもので、1200冊は10年以上経過した、かなり古いものであった。
同じくCCCが手掛ける「ツタヤ図書館」のうち、昨年新装開館した神奈川県海老名市立中央図書館でも多くの中古本が購入されていたが、多賀城市ではそれをはるかに上回る量の古本が購入されていた。
市場価格は100円以下?
この中古本購入において、もっとも重視すべきは「本の価値」である。たとえ中古であっても、本当に1冊当たり1000円の価値があるのであれば、公金支出の会計上は問題ない。しかし、それらが極端に市場価値の低いものであったならば、前回記事で「東京の図書館をもっとよくする会」の池沢昇氏が指摘したように、「不正行為の温床」になりかねない。
そこで、複数の古書店ルートを通じて、多賀城市が購入した中古本について、どれくらい価値のあるものか取材を試みたが、いずれも「中古本の卸価格については社外秘のため、回答することができかねます」との回答だった。
だが、ある古書店の店主は、取材に快く応じてくれた。ツタヤ図書館の問題についても強い関心を持っているという。そこで、ツタヤ図書館が多く購入している実用書ジャンルの本について、一般的な古本相場を聞いた。
「我々が販売している古本の仕入値は、だいたい店頭価格の3分の1から5分の1です」
つまり、100円で買い取った本は300~500円、200円であれば600~1000円で、それぞれ店頭販売されていることになる。だが、ひとつ大事な前提条件があるという。
「ただし、それは刊行から5年以内のものであることが条件です。5年落ち以上のものは、正直、買い値もつきません。2010~11年刊行、ハードカバーで定価1000円以上、しかも状態が良い本であれば、100円程度で買い取ることはありますが、5年落ちの一般的な買取価格は1冊10~50円で、店頭売価は100円がいいところでしょう。よほど良い本であれば300円つけることもありますが、それ以上では売れません」
つまり、多賀城市立図書館における追加購入蔵書リストの中古分の市場価格は、5年以内の新しいもので300~1000円、5年超のものについては、ほぼ100円以下というのがプロの見立てだ。
それだけの価値しかないものに対して、CCCが1冊当たり1000円という見積もりを出していることに驚かされる。古書店主は、その点についてこのような感想を漏らす。
「われわれも商売ですので、もし販売相手が漫画喫茶などの民間業者でしたら、いくら利益を得ようが、他人からとやかく言われる筋合いもないと思います。しかし、公共の仕事で、しかも図書館に納めるとなると、そんな不透明な取引をしたら世間から強い批判を浴びるのは避けられないでしょう」
この古書店主に、もし多賀城と同じ年代分布で1万冊の中古本の発注があったら、いくらくらいの見積もりを出すか聞いてみたところ、こう回答した。
「装備も入れて総額500万円くらいでしょうか。1冊当たり500円。それでも十分に利益は出ます。ただし、納品までの期間は1年くらいいただきます」
武雄市図書館のケースでは、CCCは1万冊の中古含む蔵書購入費用(装備費・輸送費込み)に756万円かけたことがわかっている。つまり、1冊当たり756円だから、店主が挙げた「1冊当たり500円」という額は、良心的な線なのかもしれない。
それが多賀城市では、1冊当たり1000円もかけており、装備費211円と輸送費11円を合わせると1222円で、武雄市図書館の1.6倍の金額だ。
適正価格の検討すらしていなかった!
「東京の図書館をもっとよくする会」代表の大澤正雄氏は、「公共図書館でも、古本でしか手に入らない希少本では、ごくまれに古本で仕入れることもある。ただし、その場合には市民に対する説明の手段として、第三者の鑑定書を添付するのが慣例」と話す。
そこで、多賀城市に対して、今回追加購入した中古の蔵書について「市が『適正な価格である』と判断した根拠となる第三者の鑑定書、それがない場合は適正価格と判断した根拠となる文書」を開示するよう2月22日に請求を行った。
それに対し3月7日、多賀城市から以下のような回答があった。
「当該公文書の不存在を決定しましたので通知します」
つまり、多賀城市が購入した1万冊を超える中古本について、第三者が、その価値を証明する鑑定書は存在せず、市が適正価格であると判断した根拠もないのだ。
それは、古本についての知識がない市教委が、CCCの“言い値”で提案された中古本をそのまま購入したということになる。蔵書購入を委託したCCCに、とんでもなく高い価格でボッタくられたと言っても過言ではない。
さらに、筆者が選書リストの分析を依頼した前出の大澤氏と池沢氏の2人から、こうも指摘されていた。
「あれ? このリストには価格欄がありませんよ。価格欄のない購入リストなんて、あり得ないでしょう」
そう言われてみて初めて気づいたが、確かに価格が記載されていない。民間企業でも役所でも、決裁を求める物品の購入リストに価格が一切書いていない書類など認められるはずがない。
だが、CCCが作成した選書リストには価格欄がない。作成当初から価格欄は存在しなかったのか、それともCCCが市教委に提出した後に、なんらかの理由で削除されたのか。
市教委に確認したところ、「最初から価格欄はありませんでした」という。その理由をたずねると、「選書リストは、どういう本を購入するのかということを知るためのものですから、個々について価格がいくらであるかを示す必要はないのです」と語り、価格欄がないのも当然といった回答だ。
中古本については、確かに一つひとつの仕入れ値をリストに記載するのは困難かもしれないが、書籍には当然ながら定価があり、作成したリストの基になった書誌データにもそれは必ず明記されているはずだ。
すなわち、価格欄のない選書リストは、わざわざ定価データを削除したうえで市教委に提出されたものと思われる。
海老名市立中央図書館の選書リストを見てみると、価格欄は存在していた。では、なぜ多賀城市では価格欄のないリストが作成されたのだろうか。
多賀城市は、開館準備を委託したCCCの言い値で、価値のわからない大量の中古本を購入させられたのだ。そして、市は書籍の価格すら明示されていないずさんな書類を基に購入の決定をしていたといえる。
ツタヤ図書館は、先に開業した武雄市や海老名市でも数々の不祥事が起きており、公金の使途に関しても、次々と疑惑が生まれている。その後を追うように、同じような疑惑が明るみに出てきたことについて、多賀城市民はどのような感想を持つだろうか。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)