歩数計は無意味?歩数と健康寿命は無関係…「脈拍数で寿命がわかる」ことが判明
「脈拍数で寿命がわかる!」という新事実が判明しました。脈拍数と寿命との関係を示す科学的根拠(エビデンス)はいくつかありますが、ある研究者は、普段の脈拍数が1分間当たり15回多いだけで、20年以内に死亡する確率が2倍にもなると報告しています。
これは、動物の世界では昔から知られていたことでした。動物種にかかわらず、生涯にうつ脈拍の総数が(体重に比例して)ほぼ同じで、1分間当たりの数が多い動物ほど寿命が短いのです。たとえばゾウガメの脈拍数はわずか6回/分で、寿命が170年以上もあります。一方、ネズミの脈拍数は300回/分もあり、寿命は2年ほどしかありません。
唯一の例外は人間です。トラやキリンと1分間の脈拍数は同じくらいなのですが、圧倒的に長生きであり、しかも寿命が時代とともにどんどん延びてきているのはご存じのとおりです。人間の知恵が、ここまで寿命を延ばしてきたといえるでしょう。
人間の脈拍数は50~90回/分くらいです。普段から多めの人は運動不足が原因かもしれません。ただし、この範囲を外れていて、動悸やめまいなどの自覚症状がある人は検査を一度受けておいたほうがよいでしょう。
あくまで一般論ですが、脈拍数が多めの人は、運動習慣を身につけることで普段の脈拍数が徐々に下がっていきます。そこで、どんな運動が健康増進に効果的なのかをまとめてみました。
健康増進に役立つ運動の3原則
多くの追跡調査からわかってきたのは、健康増進には脈拍数が少し上がるくらいの強さで運動をする必要があるということです。運動の種類はどんなものでもよく、手軽なウォーキングもお勧めです。
ただし、ただ歩けばいいというものではありません。昔から汗ばむほどがいいと言われてきましたが、汗をかくかどうかは気温や湿度で異なりますから、あまり参考にはなりません。数々の調査で明らかになってきたのは、脈拍数が少し上がるくらいの運動が必要で、かつ「165-年齢」を超えないようにしたほうがいいということです。たとえば50歳の人は115回/分を上限にします。
限度を超えた激しい運動は健康にマイナスで、ときには心臓が肥大して「心不全」という病気の原因となることもあります。脈拍を数えるには、まず利き手の3本の指を、反対の腕の内側にある2本の筋の親指側にそっと当てます。押さえる強さを加減すると血管の振動を感じるはずです(上図を参照)。
その振動を1分間数えたものが脈拍数となります。運動中であれば30秒間数えて2倍しても構いませんし、15秒間だけ数えて4倍してもよいでしょう。
歩く姿勢も大切です。太っている人が歩いている後ろ姿を見ると、お尻が左右に大きく振れ、また足底の全面が同時に着地するため、ピタリ、ピタリと音が聞こえたりすることもあります。
正しい歩き方のコツは、この逆を心掛けつつ、「遠くを見ながら歩く」「歩幅を大きく早足で歩く」「体の中心軸がぐらつかないようにする」「全身の力が抜けないようにする」ということになります。
歩数計を頼りにしている人もたくさんいるものと思います。しかし米国で行われた調査によれば、歩いた距離と健康寿命とはなんの関係もなかったそうです。そうだとすれば、歩数計はあまり意味がないことになります。
最近は、脈拍を数える機能を持つ「腕時計型スマホ」も発売されています。まだ値段が高いのが難点ですが、いずれ普及していくことを期待したいと思います。
以下は、健康増進に役立つ運動の3原則です。
(1)運動の種目は問わない
(2)1日30分ずつ週に3日以上、できれば5日
(3)他人と争わない
運動の効果がどんな薬にも勝ることは、多くのエビデンスが示すところです。言い方をかえれば、薬には運動に勝るほどの効果がないということになりますが、その詳細は本連載で順次、取り上げていくことにします。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)