足元で世界的に株価が持ち直し、徐々に金融市場は落ち着きを取り戻しつつある。すでにイングランド銀行は、英国のEU離脱をめぐる国民投票後の景気見通しが不透明になったとの認識を示し近々、金融緩和を進める意向を示している。今後の状況次第では、ECB(欧州中央銀行)なども追加緩和を打ち出す可能性もある。そうした流れが、金融市場の小康状態を支えている。
投資家の一部には、「英国の国民投票の結果は金融市場に大きな影響を与えない」との楽観的な見方もある。しかし、冷静にみると、世界経済が抱える問題は解決したわけではない。特に欧州の政治リスクを警戒する投資家も多い。欧州の政治動向を俯瞰すると、不透明要素は多い。英国だけをとっても、スコットランドのEU残留表明、保守党党首選をめぐる不透明感など政治は方向感を失っている。
また、英国の離脱問題に関して、ドイツなどのEU諸国は「英国の正式な離脱表明がなければ一切の交渉に応じない」と表明した。そこには、EU離脱を求める動きがドミノ倒しのように域内に連鎖することを防ぎたいという考えがあるようだ。
英国が置かれた状況は厳しい。今後、EU離脱の行程が明らかになるにつれ、単一市場へのアクセスが制限されるなど、英国経済の先行き懸念は高まりやすい。多国籍企業は英国から拠点を移すなど、事業戦略の見直しを進めるだろう。その動きが広がると、消費者心理の悪化が懸念される。
さらに注目すべきことがある。それは、欧州の大手銀行の株価が不安定になっていることだ。欧州の銀行の中には、不良債権の処理が十分に進んでいないところがある。マイナス金利による金融機関の経営圧迫、財政懸念の高まりなど、主要国の金融・財政政策は策を打ち尽くした状態にある。そのような状況において、欧州の大手銀行の経営不安が、欧州経済の景気後退、ひいては世界経済の混乱につながる可能性は高まっている。
懸念高まる欧州銀行セクター
6月29日、FRB(米連邦準備制度理事会)は、33の大手金融機関に対する包括的資本分析の結果を公表した。これは銀行の健全性を審査する“ストレステスト”の一部であり、資本調達計画などを精査するものだ。この中で30の銀行が合格したものの、米モルガン・スタンレーが条件付き合格、ドイツ銀行、スペインのサンタンデール銀行の2行が不合格だった。モルガン・スタンレーは、12月29日までに資本計画を再提出しなければならない。