世界的に金利低下が止まらない。日本の国債市場では、期限20年物の国債まで流通利回りがマイナスに落ち込んだ。欧州地域でもドイツ国債の利回りが水面下に落ち込む現象が発生している。
これまで、比較的経済状況が堅調で金融市場がしっかりしていた米国でも、ここへきて米国金利の低下が顕著になっている。米国の国債利回りで見ると、5月末から7月8日まで、2年金利は0.20%低下し0.61%、長期(10年)金利は0.47%低下し1.37%、30年金利は0.53%下がり2.11%だ。ここで気になることは、残存期間の長い金利の低下幅が大きいことだ。利回り曲線が、著しくブルフラット化している。
こうした世界的な金利低下の背景には、世界経済の先行きに不透明要素が増えていることがある。今後の経済の展開が読めないため、投資家はどうしてもリスクが相対的に低い国債を購入することになる。その結果、期間の長い金利に低下圧力をかけることになる。こうして長期の金利が短期の金利よりも、より大きく低下しやすい。
世界経済の不透明感を示す金利低下
国債の流通利回りがマイナスに落ち込むことは、お金を借りる人が金利をもらい、お金を貸す人が金利を払うことを意味する。理論上はおかしな現象だ。そうした現象が今、世界の主要国で起きている。冷静に考えると、まさに異常事態だ。
わが国や欧州などの中央銀行が景気の下支えをするために、一部の金利をマイナスに設定している。それによって市場金利が大きく下落し、期間の長い国債の金利までマイナスになっている。そうした事態になったきっかけの一つに政治情勢の不安定化がある。特に、欧米諸国の政治情勢の先行きが読みにくくなっている。
6月23日のイギリス国民投票で予想外にEU離脱が選択されて以降、欧州経済に対する懸念は高まっている。足許では不良債権処理の目処が立たないイタリアの銀行セクターへの警戒感も強い。システミックリスクの顕在化などパニックが発生しているわけではないが、投資家はリスクを取りづらい。
専門家のなかには、「徐々にEU分裂のリスクが高まり、それが各国の経済政策を束縛する」との見方も高まっている。こうした警戒感が世界的な金利低下を後押ししている。まさに、「世界の債券市場から利回りが消えつつある」のである。