この傾向はがん治療だけではない。循環器、眼科、産科、小児科などの領域でも専門病院の優位は歴然としている。診療分野を絞り、経営資源を集中させたほうが高い医療水準を維持できる。ハイレベルの医療を受けることができるのだから、患者が集中する。この状況は若き医師にとってもありがたい。短期間に、多くの症例を経験できるため、腕があがるからだ。このように考えれば、専門病院に患者と医師が集まるのは自然な流れだ。
この状況は流通業界と似ている。かつて、三越・そごうなどの総合百貨店は、わが国の流通業界をリードしてきた。しかしながら、1990年代以降、総合百貨店は衰退する。ピークの91年に12兆円であった年間売上は、いまや7兆円だ。
総合百貨店が衰退したのは、「洋服の青山」などの紳士服専門店、「ビックカメラ」などの家電量販店が台頭したからだ。専門店が、顧客のニーズに合う多様な商品を提供したのに対し、総合百貨店はどの店も同じような商品が並ぶ「同質化」に陥ったと、大西洋・三越伊勢丹ホールディングス社長は指摘している。医療であれ、流通であれ、生き残るには「選択と集中」が欠かせない。「総合」であることが大きなハンディキャップとなる。
ここで注意すべきは、都市部の病院では、選択と集中がほぼ完了していることだ。いくつかの「勝ち組」が決まっており、今から新規参入は難しい。このような病院には多くの若手医師が殺到し、病院経営者は医師確保に苦労することはない。つまり、「勝ち組」の専門病院の医師はすでに充足している。若手医師の待遇は悪いし、専門病院で「修業」して「専門医資格」をとっても、その病院に就職するのは難しい。
通常の病院に就職する際に必要なスキルは、一般診療だ。内視鏡や心臓カテーテルの技術は求められるが、大学病院や高度専門病院が得意とする心臓や脳の手術、あるいは移植医療のスキルは求められない。苦労して、身につけた技術は活用できない。この意味で、大学病院や都市部の専門病院で「修業」する費用対効果は低い。
今後、成長が期待される分野
では、医療界では今後、どのような分野が成長するのだろう。それは、ニーズが高まる領域だ。この点でも、流通業界の経験が参考になる。流通業界では、国民の多様化したニーズに併せて、コンビニエンスストアや宅配サービスが発達した。
たとえば、コンビニ業界の年間売上は、91年から現在までに約4倍に増えた。総合百貨店とは対照的だ。同じ事態が医療界でも起こるはずだ。すでに萌芽は認められる。