この方針を厚労省も支持した。自らのホームページで「日本専門医機構」の活動を紹介している。
また、専門医認定支援事業として、2014年度は3億4313万円を計上している。厚労省がお墨付きを与え、金も出している。日本専門医機構は一般社団法人であり、あくまで民間の任意団体だ。厚労省が、この組織を特別扱いする理由はない。両者の連携は、多くの国民が想像もできない利権をもたらす。たとえば、専門医資格と処方権の連動だ。
イレッサ薬害事件以降、厚労省は一部の薬剤の処方を学会が認定する専門医に限定してきた。たとえば、話題の抗がん剤オプジーボが処方できるのは、皮膚悪性腫瘍指導専門医やがん薬物療法専門医が在籍する施設だけだ。7月21日には、日本経済新聞が一面トップで『高額薬適正投与へ指針 厚労省病院や医師に要件』という記事を掲載した。厚労省のリークだ。
大きな批判がなければ、高額薬の処方は学会の認定する専門医に限定されそうだ。オプジーボの薬剤費は年間3000万円を超えることもある。病院に大きな利益をもたらすため、病院経営者は専門医資格を有する医師を雇用せざるを得なくなる。
もし、高額な医薬品が問題になるなら、値段を下げるべきだ。処方できる医師を、大学や専門病院に限定すれば、地方の患者が憂き目を見る。ただ、学会からも厚労省からも、そのような声は聞こえてこない。今後、特定の診療行為を専門医に限定する規制はますます強化されるだろう。厚労省、学会のいずれにも都合がいいからだ。
厚労省にとっては、医療統制に使える手段が増える。学会にとっては、新たな利権の創出だ。専門医資格の有無が病院収入に直結するため、若い医師が就職する際には専門医資格が必須となる。学会は何もしなくても会員が増え、会費収入が入ってくる。
若手医師の人権
日本は法治国家だ。メチャクチャなことは法的にできないようになっている。厚労省と日本専門医機構は、法律を無視して横車を押している。
たとえば、この制度が運用されれば、後期研修医は30代半ばまで強制的に有期雇用の非正規職員になるしかない。これでは、女性医師は出産、子育てが難しくなる。昔から医師の修業は過酷だった。後期研修医は、月給20万円程度の非正規雇用で、昼夜を問わず働いた。ただ、それ以外の選択肢も残されていた。あくまで、若手医師の選択に委ねられていた。ところが、新制度では実質的に日本専門医機構が指定する「カリキュラム」以外に選択肢はなくなる。