また、直接、労働契約を結ばない日本専門医機構がカリキュラムを通じて、若手医師の職場や居住地域を決めてしまう。憲法違反の可能性が高い。新専門医制度は、労働者派遣法にも違反する。日本専門医機構は人材派遣業者ではない。それなのに、新専門医制度では、若手医師を拠点病院・連携病院などに強制的に異動させる。
もし、合法的にやろうとすれば、すべての若手医師を基幹病院が雇用し、協力病院には「研修」の名目で派遣するしかない。その場合、人件費・保険・年金は基幹病院が負担する。経営難に喘ぐ大学病院の経営戦略上、これでいいのだろうか。
かくのごとく、新専門医制度をめぐる議論は杜撰だ。
学会と専門医の関係
学会と専門医資格の関係は難しい。自己規律がなければ、容易に腐敗するからだ。米国の専門医制度に詳しい岩田健太郎・神戸大学教授は「諸外国では専門医制度は学会から独立している」と指摘する。
たとえば、米国で内科専門医資格を認定するのは、「アメリカ内科専門医機構(ABIM)」だ。米国医師会と米国内科学会が共同で設立した。注目すべきは、ABIMが、学会や政府から独立していることを明言していることだ。そして、このことを行動を通じて、構成員や社会に訴えてきた。
たとえば、ABIMは専門医のレベルを維持するため「MOC」というプログラムを導入した。ところが、「あまりに手間がかかるために患者ケアの質まで落としてしまう」(岩田教授)と現場から批判を受けた。権威ある医学誌である「ニューイングランド医学誌」や「アメリカ医師会誌」でも問題点が指摘された。これはABIMにとって、痛手だったろう。
ただ、彼らはこの批判に対して、真摯に対応した。まず、ABIMは内科医たちに批判内容を紹介したメールを送り、そしてMOC制度を中断したのだ。ABIMと医療現場の間には、いい意味での緊張関係があり、これがABIMの信頼性をうみだしている。この姿勢は、厚労省の権威にすがる日本専門医機構とは対照的だ。
残念なことだが、日本の医学界は腐敗しているといわざるを得ない。ノバルティスファーマが、販売する降圧剤をめぐる臨床研究不正事件では頬被りを決め込んだ。ロハス・メディカル編集発行人である川口恭氏は、「『あの程度は大した事案でない』と医療界の多くの人が考えているのでしょう」と言う。