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江川紹子の「事件ウオッチ」第61回

【大分県警隠しカメラ設置事件】で拭えぬ疑念と監視社会への懸念

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隠しカメラ設置が発覚した別府署(大分県警HPより)

 先の参議院選挙の直前に、大分県警別府署が、野党候補を応援する労働組合「連合大分」などが入る施設の敷地内に入り込んで監視カメラを設置し、建物に出入りする人々を隠し撮りしていた問題。同県警は、同署幹部ら警察官4人を建造物侵入容疑で書類送検し、関係者の処分を発表した。

残された疑惑の数々

 事件は、公安警察ではなく、刑事事件の捜査畑の警察官が引き起こしたもの。8月27日付毎日新聞web版では、「選挙捜査で功を焦ったのでは」という県警幹部の言葉も報じられており、労組に対する継続的な監視ではなく、特定人物に対する「不適正な捜査」であったという県警の説明は、その通りなのだろう。

 ただ、報道によれば、これまでの県警の説明では、同署幹部らはカメラ設置を県警本部に報告しておらず、県警本部は事件に関与せず、違法捜査も知らなかったとしている。それは本当だろうか。

 国政選挙となれば、選挙違反の摘発に備えて県警本部に捜査本部が設けられていたはず。しかも、今回の事件の首謀者は、50代、40代というベテラン捜査員である。

 思い出すのは、1985年から翌年にかけて、日本共産党の幹部宅が神奈川県警の警察官によって盗聴されていた事件だ。この時には、組織的犯行が疑われる事実があったのに、警察庁は頑強にそれを否定。また、関与した警察官が特定されているのに、検察はこれを不起訴とした。警察が二度と違法捜査を行わないと誓約し、検察との間で“手打ち”があったとも見られている。当時の伊藤栄樹検事総長は、後に回想録の中で「おとぎ話」として、それを暗に認めている。

 今回の事件では、大分県警は違法捜査を認めており、盗聴事件と同視することはできないが、外部の視点がまるで入らない身内の調査・捜査を全面的に信頼していいのか。4警察官のみが行ったとした県警の調査・捜査結果に対し、「トカゲのしっぽ切りではないか」という声も上がっている。

 また、同署幹部らが、このようにカメラを使った「不適正な捜査」を行ったのは、本当にこれが初めてなのか。実は、これまでも何度もやっていたのではないか。あるいは、同県警の中で、こうした捜査手法はほかにも行われているのではないか。そんな疑問も、今なお払拭できていない。

 それにもかかわらず、県警を管理すべき立場の大分県公安委員会は早々に委員長が「詳細に調査され、厳正なものであったと解釈している」との談話を発表しており、警察の調査・捜査結果を了承。残念ながら、これ以上、踏み込んだ対応は期待できない。

侵害されるプライバシー

 検察は、今なお残る疑問にも応えるべく、十分かつ厳正な捜査を遂げ、その結果を公表してもらいたい。また、県議会や国会などで、こうした問題が起きた背景に踏み込んで事実解明をすると共に、カメラの設置や活用のあり方についても議論が必要だろう。

 警察官らの行為や遵法意識の希薄さが強く非難されるべきであることは言うまでもないが、彼らが撮影していたのは、一般の市民が個人的な労働相談などにも訪れる施設だ。カメラによる撮影がもたらすプライバシー侵害について、いかに警察官らが無神経であるかを印象づける事件でもあった。果たしてこの無神経さは、この4人に特異なものなのだろうか。

 警察の監視カメラ設置については、大阪市西成区のあいりん地区に、大阪府警が設置した15台の監視カメラをめぐって、1990年に住民や労組関係者が大阪府を訴えた裁判例がある。大阪地裁は、「(撮影される)対象者の意思に反する場合もある」公道でのカメラ設置が許されるのには、(1)目的の正当性、(2)使用の必要性、(3)設置状況の妥当性、(4)使用方法の相当性――などが必要と判示した。

 その上で、釜ケ崎解放会館の玄関に向けられていた1台に関して、「日常的に監視が行われており、結社の自由や団結権に深刻な影響を与えるだけでなく、プライバシー侵害する可能性がある」として撤去を命じた。この判決は大阪高裁でも支持され、1998年11月に最高裁で確定している。