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江川紹子の「事件ウオッチ」第56回

【石巻3人殺傷裁判】で残る最高裁への疑問と懸念される少年事件の厳罰化

文=江川紹子/ジャーナリスト
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【石巻3人殺傷裁判】で残る最高裁への疑問と懸念される少年事件の厳罰化の画像1元少年の弁護団は「結果の重大性だけで死刑を選択した。司法の役割を放棄した判決だ」として、最高裁の判断を批判している(画像は最高裁判所「Wikipedia」より)

 宮城県石巻市で、18歳の少年が、交際相手だった少女の実家に押し入り、少女の姉ら2人を殺害し、1人に重傷を負わせた事件で、最高裁は被告人の上告を棄却。「更生可能性」には一切言及することなく、一審と控訴審の死刑判決を維持した。

少年法の理念との狭間で

 事件前、少女は少年の度重なる暴力に耐えかねて逃げ出し、実家に身を寄せていた。少年は、復縁を迫ってストーカー行為を繰り返し、警察から2度にわたる警告も受けていた。その揚げ句の、実に身勝手で残忍な犯行だった。一方、少年は幼い頃に両親が離婚し、母親に引き取られたものの、母の新たな交際相手に馴染めず、小学5年生の時から祖母のもとで暮らし、家庭の愛に飢えていた生い立ちなどの事情もあった。

 一審では、裁判員裁判で初めて少年に死刑が宣告された。判決は被告人の「ゆがんだ人間性は顕著」で、「更生可能性は著しく低い」とし、18歳という年齢も「死刑を回避すべき決定的な事情とはいえない」と断じた。

 この判決の後の記者会見で裁判員の1人は、「人の命を奪った罪には、大人と同じ刑で判断すべきだと思い、心がけた」と述べている。

 控訴審の東京高裁も、「年齢は死刑回避の決定的事由ではない」とした。その一方で、「更生可能性が無いとは言えない」「被害者や遺族に対する謝罪の意思を表している」「生育環境に不遇な側面があった」という点は認めた。それでも、「(それらを)考慮しても被告人の刑事責任はあまりにも重い」として、控訴を棄却したのだった。

 最高裁の判決前、被告人の元少年はいくつかのメディアの記者との面会に応じ、次のように語っている。

「大切な人を失った遺族の気持ちになれば、俺も同じ目に遭うべきだという怒りは当然だと思う。逆に、この6年、手を差し伸べてくれた人たちと積み重ねてきた日々を思うと、再起したいという気持ちもある」(6月14日付朝日新聞)

「謝罪と後悔が頭の中をぐるぐる巡っている。被害者を思い、天に向かって手を合わせることしかできない」(6月15日付毎日新聞)

 こうした言葉からは、事件から6年たった彼の成長と悔悟を感じ取ることができる。そこから更生可能性を読み取ることも、不可能ではないだろう。こうした状況を踏まえて、最高裁はどう判断するのか……。そう考えていた人は、肩すかしをくらった気分だろう。

 今回の最高裁判決は、更生可能性などに触れることなく、「(事件は)冷酷かつ残忍」「深い犯罪性に根ざした犯行」などと、犯行の態様と結果の重大さに絞って、下級審の極刑判決を支持した。

 2006年の光市母子殺害事件上告審で最高裁は、少年に対する死刑は「例外」としていた、それまでの立場を変え、「特に酌量すべき事情がない限り、死刑を選択するしかない」とした。差し戻し控訴審で死刑が言い渡され、その後の上告審でもそれが維持された。ただ、その時には、死刑に反対する少数意見を書いた裁判官がいたが、今回はそれはなかった。18歳という年齢は、特に「酌量すべき事情」ではないとする判断が、ほぼ定着したといえるのかもしれない。

 では、「更生可能性」はどうなのか。これは、個々の被告人で状況が異なる。事件ごとに、個別の判断が必要だろう。

 そのうえで少年の「可塑性」、すなわち更生の可能性を期待する少年法の理念と、現実に起きた被害の深刻さをどう勘案するか。これが、本件裁判で最も注目された点だったのではなかったか。その肝腎な所について最高裁が判断を避けたのは、やはり納得がいかない。

「少年法適用年齢の引き下げ=厳罰化」ではない

 ところで、本件や川崎市の中一男子生徒の殺害事件などをめぐって、少年に対する厳罰化を求める声が再び大きくなっている。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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