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江川紹子の「事件ウオッチ」第56回

【石巻3人殺傷裁判】で残る最高裁への疑問と懸念される少年事件の厳罰化

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 少年法は、少年事件における被害者遺族の「被害者の人権が軽んじられている」「少年であっても、罪に応じた刑罰を処すべき」という声を指示する世論が高まって、幾度も改正され、刑事処分の可能年齢が引き下げられたり、刑罰の上限が引き上げられるなど厳罰化が進んできた。

 現在、語られている少年法改正論は、主に次の2点だ。

(1)選挙権年齢が18歳に引き下げられたことを受けて、少年法の適用も18歳未満に引き下げるべき。

(2)18歳未満には死刑判決を適用しないなど、少年への寛刑を定めた規定を廃止し、結果に見合った刑を科すべき。

 ただ、(1)に関しては、実現しても必ずしも厳罰化とはならないことは、十分理解されているのだろうか。少年法は少年に甘い、というイメージを抱いている人が少なくないようだが、ケースによっては、実はむしろ大人に対する処分より厳しい。

 たとえば、大人の場合は、窃盗の初犯で反省して被害弁済した場合などには、起訴猶予となって裁判にもかけられないケースが少なくない。実際、検察に送致された刑事事件のうち、6割近くが起訴猶予処分で終わっている。

 それに対し、少年事件の場合は、検挙されたすべての事件が家庭裁判所に送られる。家裁が判断する前に、鑑別所での観護措置がとられることもある。家裁の処分には、少年院送致や保護観察などがあるが、不処分の場合でも裁判官や家庭裁判所調査官による訓戒や指導、犯罪被害について考えさせる講習などといった教育的な働きかけが行われ、少年や保護者がそれをどう受け止めたかを見極めてから決定が出されている。こういう措置には、軽微な事件でも少年がきちんと自分がしたことと向き合い、反省し、立ち直りを促す意味がある。悪の道に歩を進めず、入り口で引きかえさせようとするのだ。

 少年法の適用年齢を引き下げれば、18歳、19歳には、このように悪の道の入り口で更生を促す機会はなくなってしまう。それは、果たして社会にとって有益だろうか。

 それに、殺人など故意の犯罪で人の命を奪った場合、16歳以上は家庭裁判所から検察官に逆送致され、大人と同じ裁判にかけられる道がすでにできている。

 また、年齢を考慮することなく、事件の結果だけで刑罰を判断することになれば、14歳、15歳の子どもの犯罪に対しても死刑を適用すべきか、ということまで考えなければならない。やはり、一定の年齢で線を引くことは必要ではないか。その際、多くの人が高校を卒業する18歳という年齢は、それなりに合理的ではないだろうか。

 そのうえ、少年犯罪は増えているわけでも、凶悪化しているわけでもない。むしろ逆だ。

 最新の犯罪白書(2015年版)によれば、2014年の少年による刑法犯の検挙は、戦後最少の7万9499人だった。10歳以上の少年10万人当たりの人口比についても低減しており、2014年は678.4で、最も人口比の高かった1981年(1721.7)の半分以下になっている。殺人についても、ここ5年間の少年の検挙件数は年に47~60人で、年に400人を超えた1960年前後に比べれば8分の1前後になっている。

 少年事件の場合、家庭の環境など生い立ちや生育環境が影響していることが多い。少年院などでも、少年を取り巻く環境をどのように調整するかが最大の課題のひとつになっている。

 被害者遺族の感情を考えれば、さらなる厳罰化を求める気持ちもわからないではない。しかし、被害者の処罰感情だけで刑を決めていいというわけでもない。

 少年法の取り扱いに関しては、幅広く、いろいろな視点から慎重で冷静な議論が必要だと思う。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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