日本人の死亡原因のトップは悪性新生物、すなわち「がん」です。その中でも、近年発生率が急増しているのが大腸がんです。
死亡数を見てみると、男性では肺がん、胃がんに続く第3位、女性ではもっとも多くなっています。男女合わせた場合は、肺がんに次ぐ第2位です。
かつては、日本人は大腸がんにかかりにくいと考えられていましたが、これほどまでに急増している原因として、食の欧米化が挙げられています。
では、欧米の食事のどこに問題があるのでしょうか。
最大の問題点は、野菜の少なさ、さらにいえば「食物繊維」不足にあると考えられます。
食物繊維が注目されるようになったのは近年のことです。かつての栄養学では、体が消化吸収できないため、役に立たないもの、単なるカスのように扱われていました。それが、便秘の解消に役立つことがわかり、「腸の掃除屋さん」と呼ばれるようになりました。
さらに現代では、「人の消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分の総体」と定義され、新たな栄養素として重要視されています。
食物繊維は消化吸収されないため、発がん物質なども吸着して一緒に体外に排出されることがわかっています。つまり、食物繊維が不足すると排便の量が減り、体内の発がん物質を排除する機能の低下にもつながるのです。
また、食物繊維を十分に摂取すると腸の疾患を防ぐだけでなく、虫歯、肥満、便秘、さまざまな生活習慣病の予防にも役立ちます。つまり、食生活が欧米化しても、食物繊維を意識して摂取することで病気の発生を抑えてくれると期待できるのです。
食物繊維の種類と効果
食物繊維は、水に溶けやすい水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維の2種類に大別できます。
水溶性食物繊維は、植物の細胞内にある貯蔵物質や分泌物で、食品の水分を抱き込んでゲル化します。体にとって有害な物質を吸着して便として排泄されるため、肥満や成人病を防ぐ効果が大きいといわれています。
具体的には、高血圧、動脈硬化、肥満、糖尿病、便秘、痔を予防する効果が期待できます。
ライ麦粉、干し柿、ごぼう、干しあんず、ごま、そば、切り干し大根、ほうれんそう、大豆、さつまいも、ブロッコリー、高野豆腐、春菊、きな粉、枝豆などに豊富に含まれています。
一方の不溶性食物繊維は、腸壁を刺激して腸の運動を盛んにし、腸内にたまった不要物質を体外に排出されるように促します。
具体的には、虫歯、憩室症、大腸がん、虫垂炎、痔、便秘などを予防する効果が期待できます。
ライ麦粉、あずき、大豆、栗、干し椎茸、おから、オートミール、玄米、かんぴょう、納豆、こんにゃく、ニンジン、バナナなどに多く含まれています。
まとめてみると、総じて穀類、いも類、豆類、野菜、果実、海藻、きのこなどに多く含まれています。外皮、殻などを含む食品に多く、精製された食品に少ないといえます。
注意すべき点は、決してサプリメントで摂取しないことです。食物繊維の作用は、食物ごとに多少異なるため、多くの種類から摂るほど有効です。また、食物繊維だけを大量に摂取すると、体内に必須の亜鉛や銅といったミネラルまで排出してしまいます。特に、亜鉛が不足すれば味覚異常が起きるなど、体に深刻な影響を及ぼします。
特定の栄養素だけを補おうとすると、体に負担がかかります。必要な栄養素は、食べ物から摂取するように心がけましょう。
(文=豊田美里/管理栄養士、フードコーディネーター)