「政治的、経済的事情の点で、我々が経験したなかでもっとも問題の多い大会である」
ジョン・コーツ国際オリンピック委員会(IOC)副会長は、大会会期中にそう話したという。
ブラジルにとってリオ五輪は、民主化、経済成長とステップを踏み、経済新興国となり掴んだ南米大陸初の大会となった。しかし、開幕を前に、ルセフ・ブラジル大統領は汚職疑惑による弾劾裁判手続きのため職務を停止。国の経済成長率は5四半期連続のマイナス。リオデジャネイロ州も財政危機に陥り、給与が支払われない警察官らにより抗議デモが行われ、治安維持など公共サービスが崩壊する危険性が生じた。ついに州は非常事態宣言を出し、政府の緊急支援を求めた。
そのなかでリオ五輪の幕は上がり、事前の不安に比べれば、平穏無事に幕が下りたように思われる。「開催準備は過去最悪」(コーツ)と不安視された五輪。現地・リオの街並みから肌で感じた五輪開催の課題をレポートする。
ハード面の完成度と交通アクセス
今回の五輪ではリオ市内の29競技場のうち11を新設した。一時、工事は順調といわれていたが、開幕直前になり建設会社の破産や横領事件などさまざまな問題が発生し、完成が遅れた建物もあった。
コパカバーナ海岸のビーチバレー・アリーナもそのひとつ。仮設だが6~7階建てのビルの高さで1万2000人を収容する競技場である。3カ月前に建設が始まったものの、高波で建物が崩れたり、書類の不備により工事が遅れたりして、完成は開幕の数日前だった。
しかし砂浜に鉄製のパイプで組んだ仮設スタンドは不安を感じるようなものではなく、ロンドン五輪のアリーナと比較しても、建物としては遜色なかった。ただ本当に完成しているのかと思われる部分は多く、入場口から観客に砂浜を歩かせるルートになっていたり、効率的な階段や通路のつくりになっていないなど、あるべきところにあるべきものがない印象を受けた。
競技場の照明も、スタンドの上に設置されていた「五つの輪」に明かりが当たっていなかった(なぜか2日目からは当たっていた)。また、トイレの数が圧倒的に足りておらず、男性でも数分、並ばなくてはいけなく、女性が並ぶ列は競技場を半周するほどだった。