農林水産省は9月27日、バターを4000トン追加輸入すると発表した。1993年のガット・ウルグアイ・ラウンドの合意により決められている最低輸入量が今年は7000トン、5月に緊急輸入を決定した分が6000トンあり、今回の分を合わせると、今年度は1万7000トンを輸入することになる。
需要が大幅に増える冬に向け、供給が不足するとの懸念があるが、十分な量が確保される見通しだ。
ここ数年、バター不足が深刻化している。農水省は、酪農家が減少していることを原因に挙げている。確かに、酪農家が減少していることは事実だ。だが、2月の時点で「バターの供給は足りている」と説明していたにもかかわらず、なぜ2回も緊急輸入することになったのか。そこには、日本の酪農が抱える構造的問題がある。
ここ10年で、酪農家は約4割も減少している。2015年の農水省の統計によると、全国に酪農家は1万7700戸。そのうち約38%は北海道にある。そして、その北海道で生産される生乳の84%が乳製品向けに出荷されている。ちなみに、ほかの都府県で生産される生乳のうち、乳製品向けは12%だ。つまり、都市部に近いところで生産された生乳は飲用、北海道で生産された生乳は加工用という棲み分けがなされている。
生乳の価格(乳価)は、乳業メーカーと酪農生産者との合意によって決まる。合意にいたるまでの交渉は、需給状況、市場動向、経済状況、生産者・販売業者の経営状況などが総合的に勘案されるが、全国的に大きな差は出ない。
だが、飲用向けの生乳に比べて、加工向けは価格が大きく下がる。およそ飲用向けは1リットル当たり100円前後になることが多いが、加工向けは70円前後だ。加工原料生産者には補給金が支給されるが、1キログラム当たり12.69~15.28円で、それでもやはり飲用向けに出荷したほうが売り上げは大きくなるため、酪農家が飲用向けの生産を望むのは当然といえる。
しかも、補給金を受け取るためには、「指定団体」と呼ばれる全国に10ある農協系の指定団体を通して申請しなければならない。この指定団体は、生乳の集荷、販売を独占しており、地域ごとに生産量や用途を決めている。
この制度が自由なバターの流通を妨げているとの批判が多く、政府の規制改革推進会議でも、見直しの議論が行われている。