さらに、65歳以上の高齢者世帯は、パック旅行の年間支出金額が6万円超と最も高く、サプリメントなどの健康保持用摂取品の支出金額も2万円超で、「健康に気を配り、趣味を楽しむ高齢者」と位置付けている。
注目は高齢者の家計だ。高齢者世帯の貯蓄現在高が1世帯当たり2430万円となっている。ここでは「貯蓄現在高は貯蓄額の高い世帯によって引き上げられている」点を指摘し、中央値(貯蓄額の低い世帯から高い世帯へ順番に並べた際にちょうど中央に位置する世帯の値)は1547万円だった。一握りの富裕層が全体の数字を引き上げているわけである。
ICTを活用している高齢者世帯は、ネットショッピングにも積極的だ。この10年間で利用世帯は3.58倍に急増。高齢者世帯の13.6%がネットショッピングを利用している。支出金額では旅行関係費が22.5%と最も高く、ほかの世代と比べると医薬品・健康食品への支出が多いのが特徴だ。
この「統計からみた我が国の高齢者」から思い浮かぶのは、生活にゆとりがあり、ネットを活用して旅行や趣味を楽しむ一方、時間をやりくりして仕事も継続している姿だ。プチ富裕シルバー像といっていいのかもしれない。
調査対象は二人以上の世帯で単身者世帯は除外
注意してほしいのは、暮らしや家計については、調査対象が「世帯主が65歳以上である二人以上の世帯」となっていることだ。いま、大きな問題となっている一人暮らし高齢者は除外されているのである。一人暮らし高齢者は、10年には男性約139万人、女性約341万人の合計約480万人に達している(内閣府調査)。
15年の推計値は男女合計で約600万人とされ、高齢者全体の17%を占める。この人たちのデータが欠落しているため、一人暮らしの単身世帯で問題となっている孤独死や低所得、住宅難といった問題が、まったく見えてこないのである。
それだけではない。高齢者をターゲットとした犯罪、高齢者が加害者となる犯罪、交通事故、認知症患者の急増、老老介護といった社会問題がすっぽり抜け落ちている。「敬老の日」にちなんだ報告書だから、明るい高齢者像にしたのかもしれないが、こんな“幻想”に国民はだまされない。
25年には団塊世代が後期高齢者となり、高齢化の問題はますます深刻となる。独居老人はまさに待ったなしの状況が続いているのである。安倍政権には、どこまで危機意識があるのだろうか。
(文=編集部)