「タバコの本数を多く、長期間吸う喫煙者ほど遺伝子変異数が増加する」
「毎日1箱(20本)を1年間吸うと、150個の遺伝子変異が肺に蓄積される」
上記研究成果を国立がん研究センター、理化学研究所、日本医療研究開発機構など日米英韓の国際共同研究グループが、2016年11月4日付の米科学誌「サイエンス」に発表した。国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)プロジェクトの一環として実行された研究である。
筆者はこの研究結果を知ったとき、まさに衝撃が走った。今回はこの研究結果の要点を整理し、人体への喫煙被害についてお伝えしたい。
遺伝子突然変異は自然に修復されるため、大量に蓄積されることはないのが一般的です。しかし本論文では、以下の項目を重要視しています。
(1)タバコによってDNAに遺伝子変異が誘発されることが明確化した。
(2)タバコとの関連が報告されている17種類のがん患者5243人を対象に、喫煙者と非喫煙者で遺伝子変異数の違いを比較解析した。
(3)肺・喉頭・口腔・膀胱・肝臓・腎臓のがんは,喫煙者のほうが遺伝子突然変異数が多かった。
(4)突然変異数が最も多い肺がんでは,毎日1箱(20本)を1年間吸うと150個の突然変異が肺に蓄積すると推計された。
(5)肺・喉頭・肝臓のがんは、タバコが突然変異を直接起こし、膀胱・腎臓のがんも、直接ではないもののタバコが突然変異を誘発していた。タバコによる突然変異には少なくとも3パターンがあり、臓器により相違があることが明確化した。
(6)既述の遺伝子変異が修復されずに徐々に蓄積していくと発がんしやすい。
健康寿命延伸のための秘策
今回の報告結果に鑑みると、健康寿命延伸のための秘策としては、いかに若い頃から禁煙を継続するかが鍵となると考えられます。
また、この研究成果は筆者の著書『こわい病気にかからない生活習慣』(KADOKAWA/16年2月25日発刊)、本連載の第1回、第2回の記事内容を裏付けるものです。単なる予防医療ではなく、戦略的な先手必勝予防、つまり未病先防が健康寿命延伸の鍵となります。同書の第2章『がんにならないために』では、「95%のがんは生活習慣で予防できる」としています。
喫煙者のみならず非喫煙者(受動喫煙者)にも健康被害があることは周知の事実です。それを裏付ける報告(以下論文・記事)があります。
家庭内で受動喫煙がある人は、ない人に比べて肺がんになるリスクが1.3倍高くなり、海外の解析結果と同様だったことが明確化したのです(受動喫煙の肺がんに対するリスクが1.3倍高いのは確実)。この点からも、日本において屋内禁煙の必要性が十分にあるものと考えられます.
肺がんリスクが完全に消失
筆者が勤務する愛知医科大学病院先制・統合医療包括センター(AMPIMEC)のマーナ(mRNA)健康外来を受診した長期喫煙者(40歳男性)が、採血結果を認知することで即座に意識付け・行動変容し、短期間禁煙(約4カ月間)することにより、(1)肺がんリスクが完全に消失(禁煙前リスク:正常人の4倍上昇)し、(2)長寿遺伝子の活性化を認めた(受診1年後)症例を経験しています。受診者自身のみでなく、その家族も大変に喜んでおり、外来受診直後からの禁煙に周囲も驚愕しています。禁煙は1年半経過した現在も継続中です。
本症例は、いかに喫煙が肺がんリスク上昇に密接に関与しているかを物語っています。また、自身の意識付け・行動変容により、ヒトは生活習慣を変えることができ、禁煙可能な動物なのです.
以上の報告・実験例に鑑みると、禁煙すること、受動喫煙を回避することが、自身の遺伝子変異・その蓄積を防ぐ最も効果的・戦略的な方法といえるのではないでしょうか。仕事第一主義の日本人にとって、30~50代は働き盛りで仕事に生き甲斐を見いだす時期でもあり、ストレスにより喫煙しがちな時期でもあります。
「喫煙習慣はまさに“遺伝子変異ドミノ”(=発がんリスクを高めるドミノ倒し)」ということを念頭に置き、「禁煙は必ずできる!」という自覚の下に、今日から即開始しましょう。
(文=福沢嘉孝/愛知医科大学病院 先制・統合医療包括センター部長・教授<AMPIMEC>)