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ツタヤ図書館、利用者にTポイント付与&会員情報をCCCへ送信が発覚…市議会に波紋

文=日向咲嗣/ジャーナリスト、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士

 3月7日付当サイト記事『ツタヤ図書館、利用者にTポイント付与で波紋…CCCを選定した教育委員長が館長に天下り』で報じたように、2月4日に開館した岡山県高梁市の新図書館で、レンタル大手TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が、市の委託を受けて同館の指定管理者となったにもかかわらず、市議会の承諾なしにTポイント制度を導入していた。この事件は、高梁市議会関係者たちにも少なからぬ衝撃を与えた。

ツタヤ図書館が利用者へTポイントを付与することは、お金と同様の価値のあるものを、図書館を利用するたびに与える行為に等しいのです。図書館は、子供も利用する施設ですから、いわば“餌付け”しているようなものです」

 都内のある図書館関係者は、思わずこう漏らした。“餌付け”という言葉に、この事件の核心が込められている。導入されたのは、ポイントを餌として、子供たちも含め図書館に集まってくる市民の個人情報を、CCCが収集することが可能な制度だからだ。

 なぜ、このような事態が起きたのか。今回は、事態の推移を追って検証してみたい。

 下の図は、2015年3月12日に開催された高梁市議会での答弁の一部を引用したものである。

 ある議員がTカードについて、「先行する武雄市では、個人情報の問題等でさまざまな議論がされている。高梁市ももっと慎重に検討しなくてはいけないのではないか」という趣旨の質問を行った。それに対して教育次長は、その不安を打ち消すかのように「(Tカードについて)以前、図書の貸し出しにもTポイントをつけるのかというような御質問もあったと思いますが、高梁市ではそれは採用いたしません」と答弁している。

 このような経緯から、市議会関係者の多くは「利用者の希望によって、Tカードも使えるが、ポイント付与はしないため個人情報の問題は起きない」と受け止めていた。

 それにもかかわらず、実際に新図書館がオープンすると、「Tカードで自動貸出機を利用した場合に限り、Tポイントが1日1回3ポイント付与される」ことになっていた。これについて、市議会関係者は“騙し討ち”だと憤る。

 ちなみに、この議会開催の2カ月前に、高梁市はCCCと新図書館の施設整備に関する「基本合意書」を締結していて、おおまかな方向性は決まっていたものの、まだ正式な決定は何も出ていない状態だった。

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 次に、この議会答弁から半年後の15年9月、CCCが高梁市に提出した「高梁市 新図書館指定管理 提案書」をみてみると、「図書館の貸出履歴をビジネスに利用しません」として、一般向けのTカードのように、その人の趣味趣向がわかる個人情報を利用することはないと説明をしている。

CCCが取得する情報

 では、Tカードを図書利用カードとして提示したときに、どんな情報が送信されるのだろうか。その点をまとめたのが下の図である。

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 これを見ると、「TカードおよびID紐付登録の有効性を取得する目的においてのみ、CCCの子会社であるTポイントジャパンが保有するポイントシテムに認証します」となっている。

 具体的には、「Tカード番号」「利用登録の有無」「利用日時」の3つの情報だけ会員の個人情報を保有しているCCCシステムに送信される流れが図解されている。

 要するに、提示したカードが有効かどうかを確認するためだけに、図書館利用者のデータを外部に送信して認証するというわけだ。

 では、新図書館オープン後には、どうなっているのか。

 CCCが自社サイトで公表している「Tカードでの高梁市立図書館利用に関する規約」をみると、個人情報の扱いが微妙に変わっている。

 提案書の「ID紐付登録の有効性を取得する目的において」が、規約では「『Tポイント付与と、T会員自らがTポイント付与に伴うサービス利用状況を把握する目的で』」となっているのが第一の変更点。

 つまり、提案書で「このカードが有効かどうか確かめるためだけに、CCCにデータを送る」としていたが、実際には「Tポイントを管理するために、CCCにデータ送る」となっているのだ。

 さらに注目すべきは、CCCサイドに提供される情報が、当初は「Tカード番号」「利用登録の有無」「利用日時」の3つだったが、目的が変わったことで「ポイント数」も付け加えられている点だ。

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 ちなみに「ID紐付登録」とは、CCCがT会員に割り当てるTカード番号と図書館IDとを紐づける登録のこと。これがなければ、Tポイントを付与できない。逆にいえば、両者が関連付けられていれば、どちらか片方からもう一方を照会することも容易にできる。

 これにより、高梁市図書館内で扱われるTカード番号は、個人が特定されない匿名の情報ではなく、ほかの情報と照合することで個人を特定できる「個人情報」となるのだ。

 このようなことから、一部であっても利用者の情報を図書館の外部に送信することは不適切ではないかと、武雄市でTカードが導入されたときには、多くの専門家たちが指摘して激しい議論繰り広げられた。

Tポイント情報の外部送信は協定違反?

 高梁市議会の答弁で、教育次長が「採用しない」と明言していた「貸し出し時のTポイント付与」を、ツタヤ図書館が行っていたという行為は、CCCと高梁市が交わした契約に違反している可能性はないのだろうか。

 そこで筆者は、高梁市がCCCを指定管理者に決定後、両者が交わした「基本協定書」の写しを関係者から入手して、この件に関係しそうな条項を調べてみたところ、以下のような文言が見つかった。

「Tカードを利用する者から取得する図書館利用に関する情報を、図書館利用の目的を超えて第三者に提供してはならない」

『高梁市図書館の管理運営に関する基本協定書』付属・ 『高梁市図書館業務仕様書・個人情報保護に関する別記事項』34ページより

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 言葉通りに読み取れば、「Tカード番号」「利用登録の有無」「利用日時」の3つの情報を、受注者であるCCCがTポイントジャパンに提供している時点で、この条項に違反している可能性があるように見える。だが、「これはカードの有効性を確認するためだけに行っているので、『図書館利用の目的』の一環」といった主張も成り立ち得る。

 しかし、それら3つの情報に加えて「ポイント数」まで提供することは、「『図書館利用の目的』の範囲内」とはいいづらいのではないか。

 利用者に付与されるポイントは、もちろん市がCCCに払う指定管理料から出る。つまりは税金だ。高梁市がCCCに依頼しているのは図書館運営であって、それとはまったく関係ない私企業のポイント事業への支出は、理由のない利益供与にあたるので即刻やめるべきだと主張する図書館関係者もいる。

CCCの最終目的は貸出履歴情報の取得?

 このTポイント付与の制度は、協定違反、ひいては違法行為に該当しないのだろうか。弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士の山岸純氏は、次のように解説する。

「確かに、『図書館カードとして使用しているTカード』が有効かどうかを問い合わせるために情報(Tカード番号、利用登録の有無、利用日時)をTPJに送る、というCCC側の弁明は筋が通っていると思われます。

 また、そもそものTカード」の目的は、『お買い物の際にその情報(どんなタイプの人がどんなお買い物をするか)を集めてビッグデータとして利用する』ことなので、肝心の『貸出履歴(どんな人が、どんな本を借りているかという情報)』が提供されない以上、本来のTカードの目的を達成していない状態です。

 では、なぜCCCがポイントを付けようという動機を持ったかですが、要するにTカードを図書館カードとして登録・利用してもらい、それをもってTカードの普及枚数を稼ぐための『広告戦略』または『おまけ戦略』なのでしょう。

 こうやって『おまけで釣って、Tカードユーザーを増やす』――これが動機と思われます。
しかし、『Tカードを図書貸出カードとして登録して、図書館に行けばポイントがもらえる』となれば、図書館利用者も増えますし、この点は高梁市側も文句は言えないところです。

 ところで、違法、協定違反の可能性についてですが、『図書館カードとして使用しているTカード』が有効かどうかを“問い合わせる”ためであれば、『Tカード番号』と『利用登録の有無』だけ送れば足りると思われるので、『利用日時』までTPJに開示する必要はないかもしれません。また、『どのくらいのポイントを持っている人が、図書館を利用しているのか』も把握されてしまいますし、『ポイント数』情報も開示する必要はなさそうです。しかし、このことが即ち違法、契約違反となるかどうかは正直、なんともいえません。

 少なくともCCC側は、最終的には『貸出履歴(どんな人が、どんな本を借りているかという情報)』が欲しい、と考えていることは間違いないでしょうから、ここら辺がなし崩しにならないように監視していかなればならないと思います」

 議会を軽視し、勝手にTポイント制度を導入したCCC。始まったばかりの高梁市図書館の運営だが、果たして今後、軌道修正して正常化できるのだろうか。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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