糖質を過剰に摂取すると、インスリンが追加分泌され、過剰な糖質を体脂肪に変えて蓄える――。この仕組みについては、前回の記事で説明しました。砂糖や小麦粉、お米や芋などの糖質を過剰に摂取すると太るのであり、その逆に「糖質制限すると太らない」ことは説明がつきます。
さらに、太っていた人が糖質制限をして、するすると痩せていくのを見た人もたくさんいると思います。太らないだけでなく痩せるのはなぜでしょうか。
それは、糖質制限をすると脂肪をエネルギーとして積極的に利用し始めるからなのです。
糖新生するエネルギーとして脂肪を消費する
私たちの体の中で、「赤血球」と「脳」の一部には、一定量の「ブドウ糖」が必要です。糖質制限をすると、私たちの体は、赤血球と脳に必要な量のブドウ糖を自らの肝臓でつくり出すようになります。これを「糖新生」といいます。
そのときに、糖新生の材料として主にたんぱく質の一部を利用し、エネルギー源として主に脂肪を代謝して出てきた物質を利用するから、脂肪が減り痩せるのです。
赤血球や脳とは真逆に「心臓」などは、もともとエネルギーとして「脂肪酸」を好み、ブドウ糖は極力使いません。私たちの体の中のほかの多くの細胞も、エネルギーとして脂肪酸を使うことができますが、血液中にブドウ糖がたっぷりあるときはブドウ糖を使います。
たとえてみれば、「赤血球」はブドウ糖でしか動かない「糖質エンジン」。「脳」はブドウ糖と脂肪酸(ケトン体)の両方を使える臓器ですが、糖質を好む「ハイブリッドエンジン」。「心臓」はほぼ脂肪酸を使う「脂肪酸エンジン」。「そのほかの細胞」は「ブドウ糖と脂肪酸のどちらも利用できるハイブリッドエンジン」。
糖質制限すると、血中のブドウ糖は必要最低限が維持されるだけになるので、全身の細胞や臓器が脂肪酸をメインエネルギーにするようになります。極めて単純な仕組みです。そして、燃料のブドウ糖を食べないようにすれば、赤血球以外の細胞はこぞって脂肪酸やケトン体をエネルギーとして使うようになります。だからエネルギー源として蓄えられた体脂肪がどんどん減っていくのです。
糖質を摂取しなくても赤血球と脳に必要なブドウ糖は「糖新生」でつくられる
「毎日必ずたくさん糖質を摂取しなくてはならない、そうしないと我々は脳が働かなくなり、酸素も運搬できずに死んでしまう」――。そう叫ぶ方々が主張する理由に、上記の赤血球や脳の存在があります。
脂肪酸をエネルギーとして利用するためにはミトコンドリアが必要ですが、赤血球には核もミトコンドリアもありません。だから、赤血球は糖質(ブドウ糖)をエネルギーとするしかありません。
脳はエネルギー食いの臓器で、ブドウ糖を使うほうが効率よく動きます。もちろん脂肪酸からできるケトン体も利用できますが、ある程度のブドウ糖は毎日必要とします。
このような赤血球と脳が必要とするブドウ糖の量は、健康な成人で1日当たり130~150gとされます。ちなみに、脳は1時間当たり約4g(安静時には約3g)、赤血球は約2gのブドウ糖を消費します。一方、健康な成人の肝臓で糖新生できるブドウ糖の量は、1時間当たり約6g、1日当たり150gです。
この2つの数値がほぼ等しいということが何を意味しているのか、考えてみたらわかりますよね。
つまり、赤血球や脳が必要とするブドウ糖量は肝臓がつくり出す量で十分に足りてしまうのです。
糖質をまったく摂取しなくても、我々は低血糖になることはありません、体は糖質ゼロを前提にしたシステムをもともと備えているのです。糖質を食べ物から摂取する必要がないということは明白な事実なのです。
さらに、前述したように脳は必要なエネルギーの70%までは、ケトン体を使うこともできます。そうすると、1日当たりに必要なブドウ糖の量は70~90gにまで下がり、肝臓の1日の糖新生のキャパシティの半分ちょっとで足りてしまうのです。
糖質を毎日摂取しないとダメだと叫ぶ人たちは、これらのメカニズムを知らないか、知っていても知らないふりをしているのだと思われます。