糖質制限して糖新生に頼ると筋肉がなくなって危険?
さて、そのように赤血球や脳のエネルギーであるブドウ糖を肝臓で作る糖新生の材料を考えてみます。
肝臓での糖新生では、主にアミノ酸の炭素骨格を利用して糖をつくります。ほかにも乳酸、ピルビン酸、グリセロールなどが使われますが、90%はアミノ酸が原材料にされると考えられます。原料となるアミノ酸は筋肉を分解して利用することも可能です。
筋肉モリモリを愛する方のなかには、「だから糖質制限すると筋肉が痩せ細って貧弱な体になる、やるべきではない」と主張する方々がいらっしゃいます。
しかし、我々の体から筋肉がそんなに簡単に失われたら困ります。石器時代の狩猟採集生活で毎日走り回っていた人類にとって、糖質はめったに出会えないラッキー食材でした。そんな彼らが毎日糖質をしっかり食べないと筋肉が衰えるなどということはありません。もしも主張通りに糖質制限するとすぐに筋肉が痩せ細るのなら人類は石器時代に滅びているはずです。
狩猟採集生活で手に入れる食料にはたんぱく質と脂質はたっぷり入っています。消化管から吸収するたんぱく質(アミノ酸)はまず肝臓に入るので、肝臓での糖新生の場合、通常はそちらの利用を優先します。
現代人のわれわれを見てもこれは明白です。糖質を食べなくてもたんぱく質をたっぷり食べた後、3~4時間してから血糖値が上昇する場合がありますが、これは糖新生の結果を反映しているのです。
ただし、糖質制限にカロリー制限を組み合わせた場合は話が異なります。食事から十分な量の脂肪酸やアミノ酸が供給されなければ糖新生の材料が足りません。その場合、糖新生のために筋肉が利用されてしまいます。
糖質制限する際には、特にし始めの段階では、ぜったいにカロリー制限はしないで、十分なエネルギーをたんぱく質と脂質から摂取してください。それが守れていれば通常量の筋肉を失う可能性はほとんどありません。
(文=吉田尚弘)
吉田尚弘(よしだ・ひさひろ)
大阪市内のクリニック勤務。1987年 産業医科大学卒業、熊本大学産婦人科に入局、産婦人科専門医取得後、基礎医学研究に転身。京都大学医学研究科助手、岐阜大学医学研究科助教授後、2004年より理化学研究所RCAIチームリーダーとして疾患モデルマウスの開発と解析に取り組む。その成果としての<アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子の解明>は有名。
その傍らで2012年より生活習慣病と糖質制限について興味を持ち、実践記をブログ「低糖質ダイエットは危険なのか?中年おやじドクターの実践検証結果報告」を公開、ドクターカルピンチョの名前で知られる。2016年4月より内科臨床医。