教育無償化を憲法改正に盛り込むという案が、5月に安倍晋三首相から提案された。憲法改正をするしないにかかわらず、とにかく教育無償化は早く実行したほうがいい。スウェーデンやデンマークといった北欧の国々が、豊かで安定した高福祉社会を実現し、幸福度指数で上位を占めている主な要因は、無償で充実した教育があるからだ。北欧では、幼稚園から大学院まで無償の教育が受けられるだけでなく、大人になってからも、管理職から失業者まで手厚い教育を受けることができる。
21世紀に入り、どの先進国も「経済成長vs.経済格差」「グローバリズムvs.ポピュリズム」「自由vs.安全」という矛盾する課題に直面している。北欧の国々は、これらの難しいパズルを充実した教育という方法で、二項対立を超えた新しい解決策に導いている。
つまり、教育に投資するという賭けに勝ったのだ。教育は、費用対効果がとてもいい投資なのだ。
経済成長と経済格差
経済成長を図ろうとすると経済格差が広がり、経済格差を縮めようとすると経済成長が滞る。現代の先進国にとって、この課題はなかなか解決しがたい。もっとも身近にかつ深刻にこの矛盾に直面するのが、業績の悪化した企業がリストラをするときだ。企業が業績を回復させ成長するには、環境変化に合わせ素早く人件費を下げられたほうがいい。しかし、それでは失業者が増えて格差が拡大してしまう。
かといって、日本のように正社員の解雇をしにくくすると、産業構造の転換と企業の生産性の改善が進まない。また、企業は解雇しにくい正規社員を増やさず、非正規社員を増やそうとしてしまう。そうするとまた経済格差が拡大してしまう。それならばと失業保険給付を充実させると、失業者がなかなか就業せず、勤労意欲が減退して経済が停滞する。
これに対して、北欧では「積極的労働市場政策」として、解雇規制を緩やかにする一方で、労働者に職業訓練、職業斡旋を行い、積極的に労働市場に働きかけている。雇用主に助成金を給付してOJT的一時雇用もしている。こうすれば、衰退産業から成長産業に労働者を速やかに移動させることができる。
ここで重要なのは、社会人教育を積極的に行っていることだ。失業者だけでなく、今仕事を持っている人も、あるいはマネージャークラスの人も対象になる。エクセル、パワーポイントの習熟、業務システムSAPの使い方、税務・経理など、さまざまな実践的な技能を個人が身につけるために、社会からほとんど無償で教育を受けられる。個人はそうしてスキルアップしておけば、解雇されても次の仕事が見つかりやすい。時代の移り変わりで産業構造が変わり今の仕事がなくなっても、別の仕事を見つけられる。