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小林敬幸「ビジネスのホント」

北欧国、幼稚園から社会人まで教育無償化で高い幸福度達成…経済成長と高福祉実現

文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者

 また、会社員として働いていたが、30代になって一念発起して医学部に入り直し医者になるという人も、大学授業料・奨学金などで厚く支援されている。実際、今の仕事を10年くらいしたので、そろそろ違う分野の勉強をして仕事を替えようと、ポジティブにやり直す人が多い。また、たとえ親が一時的に失業、無職であっても、子供への充実した教育の機会が保障されているので、親も落ち着いて自分の人生の進路を考えることができる。

 もちろん、教育においても無償だからといって甘いものではなく、厳しい面もある。大学は入るのも出るのも厳しく、当たり前だがちゃんと勉学することが求められる。

 社会全体の視点からみると、こういう充実した社会人教育によって、人的資本の質の向上を図っている。また、雇用の流動性を増し、時代の変化に合わせて素早く人的資本の最適配分を実現し、経済成長を実現している。

 個人の幸福の視点からみると、何度もやり直しチャレンジができるので、自発的に今の仕事を選んだという幸福感を得ることができる。そうすればモチベーションも上がり、より創造性が求められる現代の仕事では生産性を上げることにつながる。

 経済成長と福祉のトレードオフも、教育によって解決しようとしている。日本では、母子家庭の貧困と教育環境が、先進国として度を超したレベルまで悪化している。電気・ガスも止められ、飢餓状態の家庭もある。

 北欧では無償の保育所が充実し、子供を育てる親に手当を支給し、習い事にも行きやすくなっている。それに加え、離婚・離別による母子貧困家庭には、住宅費補助など充実した支援を行っている。このように、教育への支出は子供の能力向上だけでなく、女性の福祉支援にもなっている。それはまた、女性の労働参加につながる。

 今の日本のように、人手不足が経済成長の制約条件になっている場合、子供の教育の充実は、福祉の充実や長期的な社会の発展を導くだけでなく、女性の労働参画を通じて直接的に今の経済を成長させる即効性のある政策である。

グローバリズムとポピュリズム

 
「トランプ」「ブレグジット(Brexit:英国EU離脱)」「ル・ペン」と欧米の各国を席巻しているポピュリズムは、反グローバリズムで大衆にアピールしている。特に治安が悪化し雇用が奪われたと反移民・難民の過激な主張で支持を増やしてきた。

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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