光の治療効果
昨今、ブルーライトから目を守るメガネやフィルターが普及している。仕事柄、パソコンの長時間利用で目疲れを体験しがちな筆者も、液晶モニターにフィルターを付けている。もちろん、ブルーライトの透過が何割か減ったところで、目疲れがなくなるわけではないが、フィルターを付けた当初は、それまでよりもいくらか軽減したようにも感じられた。
そもそもブルーライトとは、その名の通り、青色の光を意味するが、具体的にいえば、可視光線において波長が380~500nm(ナノメートル)の電磁波である。可視光線の中でも波長が短く、紫外線に近い波長域にあるブルーライトは、強いエネルギーを持っており、角膜や水晶体で吸収されずに目の奥の網膜にまで到達するとされる。パソコンのほか、テレビやスマートフォンも同様にブルーライトを強く発している。
また、近年急速に普及しつつあるLEDは、特にブルーライトを多く発するため、我々はこれまで以上にブルーライトに曝されるようになっている。そんな背景もあって、ブルーライト対策商品が注目されているともいえるだろう。
だが、そんなブルーライトの性質を逆に利用する方法もある。紫外線は殺菌力が強く、短時間で細菌を死滅させるが、ブルーライトは紫外線の波長域に近く、医学の世界では、より安全な殺菌剤としてその効果が期待されている。
たとえば2013年、米ウィスコンシン大学ミルウォーキー校(UWM)の生物医学学科の学部長で光線療法で有名なChukuka S. Enwemeka博士と助手のDaniela Masson-Meyers氏は、ある波長のブルーライトがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を死滅させることを発見している。2つの広がったMRSA菌株の92パーセントが、1回の照射で死滅したのだ。
MRSAは、抗生物質のメチシリンに耐性のあるバクテリアだが、他の多くの抗生物質にも耐性を持つため、一度感染してしまうと治療が困難となる。そのため、ブルーライトが治療効果を発揮するという発見は画期的であり、抗生物質とは異なり、副作用や耐性の問題は少ないのではないかと考えられている。
ちなみに、このMRSAに対する殺菌力は、必ずしもブルーライトが紫外線に近いがために治療効果を発したというわけではない。また、MRSA以外の多くのバクテリアに対してまで殺菌効果を持つことはない。生物ごとに苦手とする特定波長の電磁波が存在するといえるのかもしれない。