米国の肥満率がついに約40%となってきた。成人の肥満の有病率は2015~16年には39.8%に上り、成人の4割が肥満であるとの調査結果を、米疾病対策センター(CDC)が「NCHS Data Brief」10月号に発表した。同調査では2~19歳の未成年者の18.5%が肥満であることも明らかにされた。
米国の肥満率は13~14年の調査時(成人37.7%、未成年者17.2%)からは有意な変化はみられなかったが、1999~2000年調査時(それぞれ30.5%、13.9%)から大幅に上昇し、いずれも過去最高を記録した。公衆衛生の専門家らは、こうした肥満率の上昇により糖尿病や心疾患などの慢性疾患患者は、今後ますます増え続けることが懸念されると警鐘を鳴らしている。
子どもの肥満率の高さも大きな問題
この調査結果について、米国心臓協会(AHA)のエドゥアルド・サンチェス氏は「米国では近年、主に治療の進歩や喫煙率の低下により心血管疾患や脳卒中による死亡率が大きく低減している。しかし、こうした米国人の肥満傾向が改善しない限り、これらのベネフィットを享受しにくくなることが心配される」と述べている。
また、米メイヨー・クリニックの小児肥満を専門とするシーマ・クマール氏は、特に小児肥満の増加は生涯にわたる健康リスクにつながると、その問題点を強調する。同氏は診療現場で、かつては成人に多くみられた2型糖尿病や高血圧、脂質異常、脂肪肝などを抱える子どもが増えている現実に直面しており、「子どもの肥満率の高さから、子どもたちはその親に比べて健康状態が悪く、短命になることが考えられる。糖尿病や高血圧、心疾患にかかる成人は今後も増え続けるだろう」と述べている。
専門家の中には、全体的な肥満率の増加だけでなく、いくつかの傾向を心配する声もある。そのひとつは、近年、国内で急増している特定の人種の成人で明らかに肥満率が高いことで、たとえば、人種別の肥満率をみると白人では37.9%、アジア系では12.7%なのに対し、ヒスパニック系および黒人の成人ではそれぞれ47.0%、46.8%に上っていた。
また、この調査では肥満率は年齢に伴って上昇していることも明らかにされた。2~5歳児では13.9%だった肥満率は、小児(6~11歳)では18.4%、思春期の若者(12~19歳)では20.6%、若年成人(20~39歳)では35.7%となり、中年期(40~59歳)を迎えると42.8%にまで上昇していた。
肥満対策は地域レベルでの対策も重要
サンチェス氏とクマール氏はともに、肥満対策には家庭レベルにとどまらず、地域レベルでの取り組みが重要になると強調している。両氏によると、家庭レベルの対策として、子どもを持つ親に健康的な食生活や運動の大切さ、さらにその実践法を学ばせることで、それを子どもに伝えていくといった方法が考えられるという。
また、地域レベルでの対策も重要で、両氏らは以下のポイントを挙げている。
(1)学校や職場の自動販売機では(砂糖などを含まない)健康に良い飲み物や食べ物を提供する
(2)農家から直接、健康に良い食品を手軽に購入できるようにする
(3)歩行や自転車に乗りやすい近隣環境を整備する
(4)学校や家庭で子どもに運動習慣をつけさせる
サンチェス氏は「対策を講じる際には、単に情報を提供するではなく、地域住民に行動変容を促す環境づくりをするという視点が重要になる」と述べている。
日本の肥満率は世界166位、それより気になる孤独死
ところで日本の肥満率はどうなのか。
WHO(世界保健機関)による世界189の国と地域を対象とした成人の肥満率ランキング(2008年)では、1位ナウル(71.1%)、2位クック諸島(64.1%)、3位トンガ(59.6%)など、南太平洋諸国が上位を占めている。アメリカ同データ上では24位(31.8%)、日本は166位(4.5%)となっている。日本における肥満は、アメリカほど深刻ではない。
しかし、ここにもうひとつ気になる研究がある。
肥満よりも、社会的孤立や孤独による死亡の危険度が高いとするアメリカ心理学会(American Psychological Association)年次総会での発表だ。「So Lonely I Could Die」(August 5, 2017)
研究チームによると、このリスクは年々高まっており、早急に対策を講じるよう呼びかけている。また、退職してから孤独に陥らないよう、貯金を含む定年後の生活を前もって準備すべきだと勧めている。
30万人から集めたデータを分析した結果、社会的孤立または孤独になっている人の早死にのリスクは、そうでない人に比べて5割も高いことがわかった。一方、研究チームが分析したもうひとつのデータは北米、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアに及ぶ340万人から集めたもので、同じく孤独や一人暮らしの人は、早死にするリスクが高いことを示していた。
チームを率いるブリガムヤング大学心理学教授、ジュリアン・ホルト-ランスタッド博士は、社会的孤立や孤独が早死ににつながるリスクはすでに肥満など他の主要な疾病を超えていると話す。
博士は、すでに多くの国では「孤独の流行病」に直面していると指摘。コミュニティ・ガーデンや憩いの場など、人々が社会的なつながりを持てる場を創設するよう提案した。
孤独死の統計データは存在しないが、厚生労働省の「人口動態統計」の死因統計で、1999年から2014年までの死因「立会者のいない死亡」の件数は確実に増加を続けている。
果たして肥満と孤独、今の日本ではどちらが喫緊の課題なのだろうか。
(文=ヘルスプレス編集部)