本連載前回記事で「2年後に備えよ」という観点から、消費増税が景気を悪化させる可能性が高いと述べましたが、どうやら景気に暗雲が立ち込めてきた気配があります。
11月15日に内閣府は2017年度第2四半期(7~9月期)のGDP(国内総生産)を公表しました。実質成長率は年率換算で1.4%のプラス。プラス成長は7四半期連続で16年ぶりの記録でした。意外と景気は悪くない、と思われるかもしれませんが、GDPの中身はお世辞にも「16年振りの記録」といえるほど良いものではありませんでした。
詳細は割愛させていただきますが、GDPの6割弱を占める個人消費は前期(2017年4~6月期)を0.5%下回ったのです。台風や長雨の影響で外食や宿泊サービスなどが伸び悩んだことがその背景にあるようですが、天候不順だけで片付けられないのです。賃金が増えないことが大きな原因と考えられるのです。その賃金、政府が検討している「働き方改革」次第ではかなり減少する兆しがあるのを見逃すことはできません。
働き方改革の目玉の一つは「残業時間の規制」です。電通社員の痛ましい事件、ブラック企業の横行、ブラックバイトなど、健康を害するような長時間労働に規制をかけるものです。ワークライフバランスが唱えられていることから、長時間労働の是正は歓迎されるべきことですが、それは賃金が減少しないという前提に立たなければいけないのです。賃金というよりも年収(所得)といったほうがよいでしょう。
働き方改革で残業の上限は月平均で60時間に規制される予定ですが、規制が導入されると残業代は最大で8兆5000億円も減少するとの試算があるのです。国税庁の民間給与実態調査による2016年の給与所得者の数5744.2万人で計算すると、1人当たり年間約14万8000円も収入が減ることになるのです。
残業代はある意味、低い給与の補填という側面があることから、その補填がなくなれば勤労者は大打撃。ただでさえ財布の紐が緩まないのですから、収入が減れば当然支出を抑えることでしょう。支出を抑えれば消費は落ち込み、ひいてはGDPの成長率も落ち込むはずです。国は長時間労働を助長する残業は問題として杓子定規に残業規制を行うようですが、勤労者の収入をどうやってカバーするのでしょうか。
来春の春闘では3%のベアを安倍首相は要求したようですが、残業時間の上限規制が導入されればたった3%のベアでは焼け石に水です。抜本的に賃金改革を行い、残業時間の上限が設けられても収入が減らない仕組みに改革しなければならないといえるはずです。
そして、上場企業は過去最高益を更新している企業がたくさんあるのですから、業績に報いた給与を今すぐに払うべきなのです。組合側も雇用を守ることを旗印にするのではなく、きちっとした労働の対価をもらえるように交渉すべきでしょう。なぜなら、国税庁が公表する勤労者の平均給与は、いまだリーマンショックのキズから癒えていないといえるレベルなのですから。
(文=深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー)