ビジネスジャーナル > ライフニュース > iQOS、安全性に疑念広がる
NEW
岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

iQOS、安全性証明の論文に疑念広がる…ニコチン量、紙巻きたばこと同程度

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
iQOS、安全性証明の論文に疑念広がる…ニコチン量、紙巻きたばこと同程度の画像1「Thinkstock」より

 米国の食品医薬品局(FDA)が、「たばこに含まれるニコチンを、中毒にならない程度の量に減らすよう企業に求めることにした」という方針を突然発表しました。たばこ産業界には衝撃が走り、直後に関連各企業の株価が下がったとの報道もありました。

 米ニューヨーク・タイムズ紙によれば、FDAの責任者は「たばこは、説明書通りに使うと命を落とすことになる、この世で唯一の商品だ」と、皮肉交じりのコメントもしていたということです【注1】。

 同紙は、ニコチンには脳の神経回路を書き替え、喫煙者を中毒患者にしてしまう恐ろしい性質があるとも記しています。ところがニコチンは水溶性のため、タバコの葉を加工する前によく水洗いさえすれば、ほぼ取り除くことができます。その処理技術はすでに19世紀に完成していて、今ではたばこの味を損なうことなく、ニコチン量を自由に加減できるのです。遺伝子操作によって、ニコチンをほとんど含まないタバコの葉を栽培できるようにもなっています。

 それにもかかわらず市販の紙巻きたばこにニコチンがたっぷり含まれている理由は、およそ想像がつきます。

 厳しい世論を受け、たばこ産業界が起死回生をかけて開発した商品が「非燃焼・加熱式たばこ」だったのです。本連載の前回号でその仕組みや評価データについて概説しましたが、今回は、その中心的存在であるiQOSアイコス)という製品をめぐる最新情報をまとめてみます。製造しているのは、世界的なたばこ企業フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI社)です。

論文への指摘相次ぐ

 この製品は日本で最初に発売が開始され、お洒落な専門店が東京・銀座にもオープンしていますが、米国では今月中にも承認を勧告するかどうか決定するとみられている。PMI社の広報によれば、すでに世界中で2百万人が専用器具を購入し、その半数以上は紙巻きたばこをやめることができたそうです。

 同社は、FDAが重要視する18種類の化学物質をアイコスで90~95パーセント低減させることができたとし【注2】、安全性を証明したとする論文59編の一覧を公表しています。ただし、そのほとんどは同社所属の研究者たちによって執筆されたものです。

 この問題については、通信社・ロイターが以前から関心を寄せており、「データに重大な疑念がある」との論評を報じました【注3】。FDAの元職員は、取材に答えて「PMI社の論文には多くの欠陥がある。悪意があったかどうかはわからないが、論文の執筆に当たった社内の職員は専門家でなく、そもそも研究の進め方に不備があった」と述べたとのこと。またPMI社で研究に従事していたある女性社員は、社内の会議で臨床試験の進め方に疑問を呈したところ、メンバーから外されてしまったとも報じています。

 PMI社がFDAに提出した論文のなかにはヒトを対象にしたものが8件あります。その半数は日本国内で行われた調査・研究でしたが、協力した医師たちは専門家ではなく、調査内容をよく理解しておらず、英語での説明も十分には通じていなかったようだとの実態も明らかにされています。

 それらの論文のなかには、実験対象がすべて日本人であったにもかかわらず、著者欄に日本人研究者の名前がいっさいなく、PMI社の社員だけが名を連ねているものもありました【注4】。「紙巻きたばこからアイコスに替えた人たち」の血液や尿を分析したところ、15種類の化学物質の濃度が「5日間の禁煙をした人たち」と同程度になっていたという内容です。ただしニコチン量は「紙巻きたばこを吸い続けた人たち」と同じでした。

 つい最近、アイコスと紙巻きたばこの、それぞれ一服中の成分を比べたという実験データが、企業とは無関係の日本人研究者によって発表されました【注5】。アイコスは、毒性の強い一酸化炭素が100分の1くらい、また、代表的な発がん性物質が5分の1くらい低くなっていたものの、ニコチン量は紙巻きたばことほぼ同じだったとの内容です。

 以上の話を、前回号で紹介した情報も合わせてまとめると、

(1)アイコスの蒸気に含まれている有害な化学物質は紙巻きたばこよりかなり少ない
(2)ニコチンは紙巻きたばこと同程度に含まれている
(3)日本人が世界のたばこ産業界からPRの片棒を担がされている

ということになりそうです。

 ロイター通信の調査チームは、PMI社がFDAに提出した論文について、不正が行われた証拠を現時点で見つけることができなかったとしています。FDAによる承認勧告をめぐる判断がどのようなものになるのか、大いに気になるところです。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

参考文献
【1】Proctor RN, Taking the addiction out of smoking. The New York Times, Aug 2, 2017.
【2】Bentley G, The FDA has a golden opportunity to save smokers’ lives. Washington Examiner, Sep 14,2017.
【3】Lasseter T, et al., Scientists describe problems in Philip Morris e-cigarette experiments. Reuters Investigates, Dec 20, 2017.
【4】Haziza C, et al., Assessment of the reduction in levels of exposure to harmful and potentially harmful constituents in Japanese subjects using a novel tobacco heating system compared with conventional cigarettes and smoking abstinence: A randomized controlled study in confinement. Regul Toxicol Pharmacol, 81: 489-499, 2016.
【5】Bekki K, et al., Comparison of chemicals in mainstream smoke in heat-not-burn tobacco and combustion cigarettes. J UOEH, 39: 201-207, 2017.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

iQOS、安全性証明の論文に疑念広がる…ニコチン量、紙巻きたばこと同程度のページです。ビジネスジャーナルは、ライフ、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!