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破綻した核燃料サイクル、3兆円税金等投入し続行決定…完成20年遅れ、いまだメド立たず

文=北沢栄/ジャーナリスト
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破綻した核燃料サイクル、3兆円税金等投入し続行決定…完成20年遅れ、いまだメド立たずの画像1伊方原子力発電所(「wikipedia」より)

 1月22日に始まった通常国会で、原子力発電政策が大きな争点となる可能性が高まってきた。衆議院議員選挙での圧勝を背景に原発再稼働を急ぐ安倍政権に対抗して、立憲民主党や超党派議員らが原発ゼロ法案を提出する動きが表面化してきたためだ。野党が「脱原発」でまとまれば、政府はエネルギー政策の根本的見直しを迫られる。

 原発はいま、どんな状況なのか――。政府は原発の再稼働に注力しているばかりではない。トラブル続きで高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉が決まったにもかかわらず、核燃料の再処理・再利用を目指す核燃料サイクル政策(下図)も、中核のもんじゅ抜きで続行する構えだ。こうしたなか、原発再稼働を止める裁判所の抑止力が注目されている。

破綻した核燃料サイクル、3兆円税金等投入し続行決定…完成20年遅れ、いまだメド立たずの画像2

 ウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)を燃料に、発電しながら消費した以上のプルトニウムを生み出すとされるもんじゅは、「夢の原子炉」とされ、核燃料サイクル計画の中心的な役割を担うはずだった。しかし、1994年の運転開始以降、事故が相次ぎ、運転できたのは22年間でわずか250日。建設・運営にこれまで国費1兆円超が投じられた。

 原子力規制委員会は失敗続きのもんじゅの運営主体を日本原子力研究開発機構から代えるよう所管の文部科学省に勧告したが、代替の事業者が見つからず政府はついに2016年12月、廃炉を決定した。だが、核燃料サイクル政策は内容を変えて継続するとした。原発で燃やし終わった使用済み核燃料を再処理してMOX燃料をつくり、これを普通の原子炉(軽水炉)で燃やす「プルサーマル発電」を推進するというのだ。

 ところが、もんじゅ以外のサイクル計画も頓挫している。日本原燃が青森県六ケ所村で93年から建設を続ける再処理工場。97年に完成の予定だったが、事故続きで完成のメドがいまなお立たない。17年12月、完成予定を従来の18年上半期からさらに3年延ばすと発表、24回目の延期となった。建設費は当初見積もりの4倍の2兆9000億円に跳ね上がった。難航を極める核燃料サイクル事業に要する巨額の費用は、もんじゅの廃炉費用を含め国民の税金と電気代から賄われる。

再稼動を推し進める安倍政権

 他方、政府は原発を「重要なベースロード(基幹)電源」と位置付け、再稼働を推し進める。福井県の西川一誠知事は17年11月、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働に同意した。福井地裁が14年5月にリスクの大きさから運転を差し止めて以降、運転停止が続いていたが、原子力規制委が17年5月、新規制基準に「適合」と判断したのを受けた再稼働だ。

 福井県には廃炉中を含め15基もの原発が集中する。国として、再稼働した原発の安全を保障できるのか。おおい町の隣の高浜町にある関西電力高浜原発3、4号機は、17年に再稼働している。大飯の2基が再稼働すると、重大な原発リスクをもたらす。

 大飯と高浜両原発は13キロメートルほどしか離れていないため、仮に2原発が同時に事故を起こした場合、住民は避難もままならないだろう。内閣府などが大飯原発の事故に備えて策定した広域避難計画は、事故の同時発生を想定していない。共同通信による大飯、高浜周辺市町のアンケートで、対象市町の6割超が「同時事故を想定するべき」と答え、再稼働をめぐる懸念については「事故時の住民避難計画」が最多となった。

 県内15基の原発が、連鎖的に事故を起こす可能性は否定できない。原因は地震・津波ばかりではない。テロの可能性もある。もんじゅの約1万点に上る機器の点検漏れにみられるように、人為的ミスもありうる。

 しかも、再稼働を進めた場合、使用済み核燃料の処理問題をどう解決するのか。最終処分が可能になるまでこれを中間貯蔵施設に保管する仕組みだが、肝心の最終処分場が決まっていない。国は最終処分場を受け入れてくれる自治体の公募を続けているが、いまもって現れてこない。

 電気事業連合会の03年の試算によれば、核のゴミ(高レベル放射性廃棄物)の最終処理を含めた核燃料サイクル事業費は全体で18兆8000億円に上る見通しという。

 東京電力福島第一原発の事故現場の後処理も見通せない。汚染水処理で建屋周辺の土を凍らせて地下水流入を防ぐ、前例のない「凍土壁」をつくったものの顕著な効果は挙がっていない。大雨が降れば流入量が急増する。しかも廃炉作業に入ろうにも、原子炉の内部状況さえ依然つかめていない。今月、2号機で格納容器の底に落ちた融解核燃料が確認されたばかりだ。

 この先、廃炉を終えるまでに8兆円もの費用と30年以上の歳月がかかるという。政府の原発政策は事実上、破綻している状態なのだ。

 こうしたなか、政権の原発再稼働を差し止める裁判所の決定が目を引く。広島高裁は17年12月、四国電力伊方原発3号機の再稼働をめぐる裁判で、住民の訴えを認め運転を禁じる決定をした。阿蘇山が過去最大規模の噴火をした場合、東へ約130キロメートル離れた伊方原発まで火砕流が到達する可能性はあると判断したのだ。判決は原子力規制委が内規として用いる「火山影響評価ガイド」を基にして規制委と逆の判定を下した。過去最大規模の火砕流の到達例とは、約9万年前の噴火を指す。阿蘇はその巨大噴火で世界最大級のカルデラができた。

 保守的な判事の多い高裁段階での初の運転禁止は、原発の安全性への疑念が司法界に広がっていることの表れだ。政治権力からの独立性を比較的保つ司法の判断は重みを増す。司法の壁が、原発推進に前のめりな政権の前に立ち塞がってきた。

 今回の国会の動きが、再び盛り上がってきた脱原発の機運を加速させることは必至だ。
(文=北沢栄/ジャーナリスト) 

北沢栄/ジャーナリスト

北沢栄/ジャーナリスト

慶應義塾大学経済学部卒業後、共同通信経済部記者、ニューヨーク特派員などを経て、フリーのジャーナリストに。

Twitter:@sxegwipcaocqsby

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