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江川紹子の「事件ウオッチ」第97回

SNSによる情報操作に対する心構え…私たちが“被害者”にも“加害者”にもならないために

文=江川紹子/ジャーナリスト

 いずれにしても、こうした現象を見ていると、ツイッター社がヘイト表現や暴力的なツイートを減らすためのルール改正をしているとはいえ、資金力のある組織が政治的な世論操作に利用しようとした場合、SNSはほとんど無防備状態と言っても過言ではないように思う。

自分が好ましいと思える情報に出会ったら

 その一方で、アカウント凍結などの基準が明確でない、との意見もある。自由な言論の場を守ろうとすれば、規制はなかなか難しい。

 そんな中、今、憲法を変えようという議論が、自民党を中心に行われている。仮に、国会での発議があった場合、国民投票法に基づいて国民投票が行われることになる。

 選挙に関する広報活動について細かい取り決めがなされている公職選挙法と異なり、国民投票法にはルールがない。そのため、資金がある組織は、いくらでもテレビCMや新聞広告、街頭宣伝などが行え、資金力の乏しいところは、それができないという制度上の欠陥が指摘されている。

 さらに、ネットメディアを通じて、虚実とりまぜた、さまざまな情報が大量に流されることが予想される。日本でも、昨年の総選挙から、メディアによるファクトチェックが始まったが、虚偽情報が極めて短時間の間に、広く出回る一方、その事実確認には一定の時間がかかる。そのうえ、虚偽情報に接した人たちに、真相を伝える情報が届くとは限らない。

 本気で憲法改正に取り組むのであれば、こうした問題にどう対応するかも、真面目に考えなくてはならない。

 SNSに関しては、私たち個人も、偽情報に影響される“被害者”になるだけでなく、それを拡散する“加害者”にもなりうる。個々人に出来ることは限られているが、自分が偽情報拡散の担い手にならないように、できるだけ注意したい。

 アメリカの歴史学者が、ナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺(ホロコースト)を否定する歴史著述家から訴えられ、裁判で勝つまでの経緯を描いた“Denial(否定)”(邦題は『否定と肯定』)という映画がある。レイチェル・ワイズ演じる主人公のモデルとなった、米アトランタ州エモリー大学のデボラ・リップシュタット教授は、月刊誌「すばる」1月号(集英社)に掲載された対談の中で、SNSでは自分が好ましいと思える情報に出会った時こそ、気をつけなければいけないと語っている。

「個人として考えなくてはならないのは、(中略)自分たちが投稿し拡散する情報の精度、信ぴょう性を十分吟味しなくてはならないということ。本当にこれは正確なのか? 情報発信者としてきちんと責任のとれる人々によって発信されているのか? もし書かれている内容が好ましくて、自分の思想に合ったものだったとしても、拡散するまえに出典を確認するべきだと思います」

 リップシュタット氏は、自身がフェイスブックで、自分の政治思想に反する極右政治家が、ひどく人種差別的な発言をしたという記事を見つけた時の体験を語っている。彼女は小躍りし、「やっぱりこの人はろくでなしだわ」と思い、拡散しようとシェアボタンを押しかけたところで、いったん思いとどまり、念のため確認することにした。もし、本当にこんなひどい発言がされているのなら、当然他のメディアやニュースサイトも報じているはずだ。しかし、検索しても、他に記事は見当たらず、伝えているのは当該フェイスブックの記事だけだと分かった。偽情報の可能性が高いと判断し、彼女はシェアするのはやめた。

 この経験を踏まえてリップシュタット氏は、こう言う。

「人は自分の都合のいいように事実をつなぎ合わせて編集しようとする生き物です。たとえ、自分が事実であってほしいと願うような、自分の信条を支持し補強するような内容であっても、丁寧に検証する必要がある。そのことを痛感した出来事でした。(中略)我々は、懐疑的な(情報の)消費者にならなくてはなりません」

 私自身も、肝に銘じておきたい。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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