「業務時間」を定義するのが難しい現代の職場環境
1990年代後半にオフィスでインターネットにつながったPCが1人1台配備されるようになって以来、本来の仕事以外の雑音がたくさん入ってくるようになりました。ウェブサイトを開けば広告が表示されますし、メールボックスに「今日の何時まで限定セール」などと書かれたタイムセールの案内が入ってきたりします。消費者向けビジネスの活動は、皮肉にも今や「消費者の仕事時間に自社の商品のことを考えさせるのが仕事」であるという見方もできます。
これは、インターネット販売をしている企業だけでなく、インターネットに広告を出してモノやサービスを売っている会社も同じです。私には、あらゆる企業が人々の仕事時間を侵食しようと躍起になっているようにも見えます。
PCがインターネットにつながる前の時代は、オフィスで働く人が個人的な消費について考えるきっかけとなったのは、休憩時間や自宅でテレビを見たりラジオを聴いたり、雑誌や新聞を読んだりする時間が中心でした。しかし、現在はインターネットにつながった電子機器に触れている時間すべてで、広告が目に入ってきてしまいます。つまり仕事の邪魔をされています。
さらにスマートフォン(スマホ)の時代になってからは、社員間の連絡も、会社に認められているかどうかに関係なく、ソーシャルネットワークを通じて行うことが定着化しています。こうなるともう社員がスマホを触っている時間は無法地帯で、経営者側としては痛しかゆしです。社員には業務時間中は仕事に専念してもらいたいと思っていますが、お客さんには逆、つまり就業時間中もスマホで自社の商品の情報に触れてもらうことを期待しています。PCやスマホはもはや業務に欠かせませんし、社員が思わずクリックまたはタップしてしまう行動を通じて、自社商品の開発や売上増加のヒントを得られることもあるでしょう。
このような状況ですから、現在は「業務時間」というものを定義することが非常に難しくなっています。形式的には会社の建物の中にいる時間、業務のために移動をしている時間、取引先を訪問している時間といえますが、公私の区分けを明らかにするのはもはや不可能です。企業はホワイトカラーの成果や生産性の定義を根本的に見直さなければならなくなってきているといえます。