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江川紹子の「事件ウオッチ」第105回

「真相究明」「再発防止」を掲げる「オウム事件真相究明の会」への大いなる違和感

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オウム事件は、その裁判過程ですでに多くの事実が明らかになっているが……(写真はオウム真理教教団施設内の様子:Hironori Miyata/Camera Press/アフロ)

 どんなに卑劣な悪党であっても、その身内が“死刑は避けてほしい”と願うのは、責められない。多少常軌を逸したことを言っても、それが本人の心情の吐露である限り、違和感があったとして聞かなかったフリをしてあげるのが人情というものだろう。

 そのため、オウム真理教の教祖麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚の三女が、本を出したり、マスコミに出たり、はたまた被害者の会のイベントにまでやってきて、父親の精神状態の異常を語り、「真実」を語らせるために死刑執行を回避し治療をするよう訴えたことなどについて、私は発言を控えてきた。ただし、被害者の会での振る舞いには、傷つき、心乱された被害者がいることは付記しておきたい。

 しかし、著名な文化人らがうちそろって、彼女の主張を代弁するような活動を始めたと聞けば、やはり座視できない。ましてや、複数のジャーナリストが、その呼びかけ人や賛同人となり、事実をないがしろにした発信をしているとなると、さすがに黙っているわけにはいかない。

 というわけで、今回は「オウム事件真相究明の会」と名乗るグループが行った記者会見を取り上げる。

 彼らの主張は、

(1)麻原が内心を語っていないので「真相」は明らかになっていない
(3)麻原が真相を語らなかった理由は、精神に変調をきたしたから
(3)控訴審で事実の審理を行わずに控訴棄却とした裁判所が悪い
(4)「治療」して麻原に「真相」を語らせよう

 というものだ。麻原の三女が言ってきたこととまったく同じで、呼びかけ人は主張が一致することも認めている。しかも、同会の発足記者会見が始まる前には、彼女が呼びかけ人らと話し込んでいる映像も出回った。

「真相究明」と言うが、オウム事件は、裁判を通じてすでに多くの事実が明らかになっている。

 坂本弁護士一家殺害事件では、麻原が実行犯に指示した言葉や様子も詳しく語られている。地下鉄サリン事件の前には、教団とサリン生成を結びつける報道があり、慌てて手持ちのサリン等を処分したり、サリンプラントを宗教施設に偽装する工事を行ったりしたうえ、仮谷さん拉致事件での捜査が目前に迫り、捜査を回避しようと相当焦っていた状況も明らかになった。そして謀議が行われ、実行犯が教祖からの指示を伝達され、犯行後に教祖本人から労われた状況も具体的な証言があった。

「真相究明の会」呼びかけ人の森達也氏は、「地下鉄サリン事件当時は“オウム絶頂期”であり、サリンをまく動機がわからない」と述べているが、とんでもない。少しは判決文を読んだり、当時のメディアを調べるなどして、当時の教団の差し迫った状況を知ってから語っていただきたいものだ。

 麻原を裁く裁判も、事実を解明するために相当の時間と経費を費やしている。一審では、初公判から判決まで7年10カ月をかけ、257回の公判を開き、事実の解明が行われた。呼んだ証人は述べ522人。1258時間の尋問時間のうち、1052時間を弁護側が占めていた。検察側証人に対しては詳細な反対尋問が行われていたことが、この数字からもわかるだろう。麻原には、特別に12人もの国選弁護人がつけられ、その弁護費用は4億5200万円だった。

 控訴審で公判が開かれずに一審での死刑判決が確定したのは、弁護人が提出すべき控訴趣意書を提出しなかったためである。当初、東京高裁は一審判決から約11カ月後の2005年1月11日を締め切り日としていたが、最終的には06年3月15日まで伸ばした。それでも期日までに提出がなされず、控訴棄却となったのだ。この時の弁護人は、弁護過誤を指摘され、所属弁護士会で懲戒された。

 高裁で公判が開かれなかったのは私も残念だったが、仮に行われたとしても弁護人にできることは限られると思われ、なんらかの新事実が明らかになる期待ももてなかったので、その結論を受け入れた。「真相究明の会」が、これを受け入れらないというなら、批判の対象となるべきは、戦略を誤った弁護人だろう。ところが彼らは、麻原三女の代理人を務めてきたこの弁護士の責任については、まったく触れようとしない。

 彼らが、「治療」によって麻原が自発的に真実をしゃべると本気で考えているとしたら、オウム真理教やこの男の人間性について、あまりにも無知と言わざるをえない。麻原が、事件を指示した時の内心について語っていないのは、裁判所のせいでも、病気のせいでもない。それは、裁判の経緯を少し振り返ればわかる。

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