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武神健之「優良健康文化をつくるために」

パワハラ上司、3つの性格類型…パワハラに無気力になった職場の「悲惨な結末」

文=武神健之/医師、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事
パワハラ上司、3つの性格類型…パワハラに無気力になった職場の「悲惨な結末」の画像1「Gettyimages」より

 最近、日本レスリング協会や日本大学アメリカンフットボール部の指導に関連して、パワーハラスメント(パワハラ)にまつわるニュースが世間を騒がせていました。スポーツ界は、先輩に絶対服従であったり、いわゆる根性論などの“体育会系”文化がまだ残る世界なのかもしれません。しかし、同じようなことが普通の職場でも起こっているというのが、産業医としての私の実感です。

 実際に企業で働く人の3人に1人が、過去3年間にパワハラを経験しているといいます。一口に上司によるパワハラといっても、具体的にその方法はたくさんあります。今回は、職場でも見かけるパワハラの典型例3つと、パワハラを起こす上司の3タイプについて、お話ししたいと思います。

“生贄”型

 まずひとつめは、“生贄”型です。

 このタイプのパワハラは、パワハラの対象=被害者は会社組織内の特定のひとりであることが多いのが特徴です。最近話題となった日大アメフト部では、“はめる(はまる)”という言葉で、この状態を表現していたようです。

 攻撃対象はある程度の期間で変わることもありますし、対象社員が退職か休職するまで続く場合があります。しかし、その対象はいつもひとりで、同時に複数人にハラスメントすることはありません。

 対象となった人の同僚たちは、毎日のように問題行動を目の当たりにしていますが、なんら手を打つことをしません。過去の経験から、勇気を出して行動しても何も変わらないということを学んでしまっているので、「自分だけは次の標的にはなりたくない」「自分じゃなくてよかった」と思っても、よほどの大事が起こらない限り、アクションは起こさないのです。そして、次の生贄に自分がならないように、パワハラ上司には絶対服従します。

 長期間にわたってストレスが回避困難な環境に置かれた人は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなってしまうという、学習性無力感が組織に蔓延していることも、パワハラ上司以外に問題なのです。

“無差別爆弾”型

 2つめは、“無差別爆弾”型です。

 このタイプのパワハラは、パワハラ上司は部下の誰に対しても、その日その時の気分によってパワハラを行います。しかし、爆弾は下にしか落ちることはなく、自分より上の役職に対して無礼は一切起こしません。

 部下たち全員がある意味同様な被害者ですので、お互いの結束力や連帯感があり、前述の生贄型に比べ、ひとり追い込まれてメンタル不調者がでることはあまりありません。よほどの大事も起こらないので、本部や人事部等の他部署は気がつかないか、気がついていても何も起こっていないので、特に対策アクションを起こさず見過ごしていることが多いです。組織として気づいていても何も手を打たないということが、この種のパワハラ問題につながっています。

“職人型”

 3つめは、“職人型”です。

 このタイプのパワハラは、優秀なプレーヤーであった上司によくみられます。自分自身は普通にできていたのだからと、完成度の高い要求水準を部下に求め、その基準に達しない結果には厳しく当たります。指導が熱くなり手足が出ることや、反対に結果を責めても、背中を見て盗め(学べ)的に具体的指導はまったくしないネグレクトタイプであることもあります。

 実際にその上司自身が手取り足取り教わったことがないため、どのように教えたらいいのかわからない場合もあります。特定の“仕事は”できると評価されている人こそ、ちょっと注意が必要かもしれません。いいプレーヤーがいいマネージャーになるとは限らず、管理職へのマネージメント研修がないことなどが問題の一部となっていることもあります。

パワハラ上司の性格の傾向

 私は産業医として通算1万人の人との面談のなかで、このようなパワハラを起こす上司たちには、性格の傾向が3パターンあるように感じます。

 まず、“生贄型”のパワハラを起こすのは、冷静沈着で知的レベルの高い上司であることが多いようです。自分の肩書きや権威を守るため、あえて特定のひとりを見せしめにすることで、支配を固めているようです。自覚のある計画犯であることもあり、周囲の協力なしには証拠が挙がりにくのが特徴的です。

 2つめの“無差別爆弾”型のパワハラを起こすのは、上記よりも短絡的な思考を持ち、または、その職場以外に他に自分の居場所がない上司に多い傾向が認められます。自分の肩書きや権威を守るというよりは、大声や鉄拳で指導したらコトが思いのほか、すんなり運んだという過去の成功体験(経験)が、それ以外のマネージメントスキルを学ぶ意欲を奪ってしまったように感じます。

 3つめの“職人型” のパワハラを起こすのは、ホワイトカラーよりもブルーカラー的な技術系の職場、昔ながらの職人気質な人に多い傾向を感じます。興味を持った特定の分野に関しては素晴らしい才能をみせるものの、他人とのコミュニケーションは苦手ということで、筆者は最近はこのタイプのハラスメントを起こす上司に、一定の割合で発達障害を疑ってしまうことがあります。

 パワハラを許容することはできません。そのために、パワハラ上司を厳しく指導することは大切です。しかしその前に、「勇気を出して行動してもどうせダメだ」と広がる諦めムードを会社組織からなくすことも大切でしょう。

「どうせダメだ」「会社は何もしてくれない」、このようなネガティブな感情をグループ内で共有し合っていると、無力感は一層強まり、職場全体に無気力なムードが広がります。その結果、自身や所属先への肯定感を失い、萎縮したり創造性を発揮できなくなったり、仕事へのモチベーションも低下しかねません。場合によってはモラルハラスメントや不正の温床になるなど、企業にとっても見過ごすことのできない状況を生んでしまいます。これは、当事者たちはもちろん、会社組織にとっても非常に不幸な状況です。

 パワハラ被害者を「かわいそう」と思いつつ傍観している人たちと同様に、パワハラを放置、黙認している会社組織もいずれ悲惨な状態になる可能性があります。個人も会社も、いや、すべての人がそうなる前に、パワハラという問題に断固たる態度で臨む覚悟をしてほしいと思います。
(文=武神健之/医師、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事)

(参考資料)
厚生労働省はパワハラについて次のような概念を示しています。
同じ職場で働く者に対して、(1)職務上の地位や人間関係など職場内の優位性を背景に、(2)業務上の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または、職場環境を悪化させる行為 (2012年1月、厚労省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」ワーキンググループ)。

武神健之/医師、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事

武神健之/医師、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事

医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書―上司のための「みる・きく・はなす」技術 』(きずな出版)、『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある

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