米国が第2次大戦中、原爆開発を推進した「マンハッタン計画」関連地の米国立歴史公園が、原爆投下による人的被害などの非人道的な側面を展示する計画を進めている。施設の展示計画の策定は2019年にも着手し、2年以内の完成を目指す。
米政府は15年11月、マンハッタン計画の中心地のニューメキシコ州ロスアラモスやテネシー州オークリッジ、ワシントン州ハンフォードの原爆研究開発施設や周辺区域を国立歴史公園に指定。広島・長崎両市が「原爆投下の正当化が強調されかねない」と懸念を伝え、人体への影響を展示するよう求めていた。
今回の展示計画が異例なのは、米国では「原爆は戦争終結を早め、多くの米兵の命を救った」などとその使用を正当化する世論が根強いからだ。1995年には国立スミソニアン航空宇宙博物館が企画した原爆展が退役軍人らの反発で事実上中止されている。日本でも、米国でのこうした世論に反感を覚えても、どこが間違っているか具体的に反論できる人は少ないのではないか。
しかし原爆投下を正当化する米国での世論は、歴史的事実に照らして誤りであることが判明している。しかもその誤りは、米国の政府や軍が情報操作によって意図的に撒き散らした嘘なのである。
原爆投下を正当化する主な主張
広島市立大学国際学部教授の井上泰浩氏が6月に上梓した『アメリカの原爆神話と情報操作』(朝日選書)などに基づき、広島・長崎への原爆投下を正当化する主な主張を検証してみよう。
まず「一般市民に犠牲をできるだけ出さないよう、軍事基地を攻撃した」という主張である。当時のハリー・トルーマン米大統領は広島に原爆を投下した3日後の45年8月9日、ラジオ演説で「民間人の死者を可能な限り避ける」ため、軍事施設である広島に原爆を落としたと述べた。
しかし広島は、日本が奇襲したハワイの真珠湾とは違い、都市であり、およそ30万人が住んでいた。軍事施設はあったが、広島港には機雷が投下され、米海空軍が日本周辺で制海権を握っていたので、広島にいる日本軍は事実上制圧されたも同然だった。
原爆の攻撃目標は軍事基地ではなく市内繁華街だった。民間人の死者を可能な限り避けようとしたけれども偶然、人口密集地に落ちてしまったのではない。むしろ原爆の最高政策決定機関は市民の死者を可能な限り多くするよう決定していた。都市の完全破壊と市民の殺傷を最大化することで原爆の威力を見せつけ、心理的効果を最大にしようと図ったのである。