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消費増税へ向け、財務省・民自両党も懐柔

“帝王”勝栄二郎財務次官が、強靭な為替介入シフトをしく理由

文=森岡英樹/金融ジャーナリスト
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“帝王”勝栄二郎財務次官が、強靭な為替介入シフトをしく理由の画像1「週刊現代」(講談社/7月7日号)
「消費増税関連法案の審議に影響があってはならない。財務省は間髪を入れずに為替介入すべきだ」

 民主党幹部は、スペイン問題からユーロが急落し、対円で94円台に突入した7月23日午前、こう呟いた。

 スペインでは20日、東部のバレンシア州が中央政府に支援を要請したのに続き、北東部のカタルーニャ州や南東部ムルシア州も申請を検討していると報じられた。スペインの危機は銀行部門から地方政府にも波及し始めており、「スペインのギリシャ化」が懸念される状態にある。

「欧州第4位の経済規模を持つスペインの財政に火がつけば、現在の欧州金融安定基金(EFSF)では支えきれない」(市場関係者)と懸念される。

円高は許容範囲を超えている

 ユーロの急落から日本株も大きく値を下げている。欧州関連株を中心に売り込まれ、日経平均株価は23日の終値で8500円割れ寸前まで急落した。大手企業の為替想定レート(期初)は1ユーロ=105円に集中している。10円以上のユーロ安・円高は、すでに許容範囲を超えている。

 23日午前、安住淳財務相は「投機的な動きや過度な変動に対しては、断固たる措置を取る」と述べ、円高に歯止めがかからなければ、円売り介入も辞さない構えを強調した。同日早朝には、野田佳彦首相と白川方明日銀総裁が会談しており、中尾武彦財務官は欧米の関係当局と調整に入っている。財務省の腕の見せどころだ。

 実は財務省の勝栄二郎事務次官は、すでに「夏の円高」を視野に入れた布石を打っている。

 消費増税シフトで幹部人事を基本凍結する中、7月13日付で、国際局の市川健太・為替市場課長を大臣官房付とし、後任に松尾元信主計官(総務・地方財政係担当)を就けた。松尾氏は、円が戦後最高値(79円75銭)を更新した95年4月に、為替介入を仕切る国際金融局為替資金課に在籍しており、当時の上司は「ミスター円」こと榊原英資財務官と勝栄二郎課長であった。松尾氏は勝氏の信頼の厚い部下である。

 その松尾氏を為替介入の司令塔となる為替市場課長に据えたことは、円高阻止に向けた勝氏の意思表示と言っていい。とくに欧州危機が深刻化する中、ユーロの下落が今後も続くと予想され、円が対ユーロで極端な円高に振れた場合、躊躇せず為替介入に踏み切る用意があることを示している。

首相秘書官には、野田首相と気脈の通じた官僚を投入

 勝次官の動きはこれだけではない。昨年9月には、野田政権の誕生を待っていたように太田充主計局次長(83年入省)を首相秘書官として送り込んだ。中核の主計局から直接送り込む人事に、「財務省の野田首相に対する前のめりな姿勢が如実に表れている。狙いは消費増税だろう」(民主党関係者)と指摘された。太田氏は主計局総務課長を務め、財務副大臣時代から野田氏を支えてきた、気脈の通じた官僚である。

 また、太田氏と同期で肩を並べる岡本薫明氏(官房秘書課長)と星野次彦氏(主税局担当審議官)が脇を囲む。星野氏は、谷垣禎一自民党総裁が財務相時代の秘書官である。消費税引き上げをめぐる民主・自民の連携の黒子役を担う。

 勝次官による政権への食い込みは、こればかりではない。小沢一郎氏が官房副長官時代に秘書官を務めた香川俊介氏(79年入省)を官房長に留任させ、同期の木下康司氏を昨年8月2日付で国際局長に回した。野田首相が財務大臣時代から最も腐心していた円高対策への配慮にほかならない。「柔軟でバランスのとれた木下氏を国際局長に据えることで、いつでも為替介入できる布石を打ったようなもの」(永田町関係者)と受け止められている。

 実際、この布陣で、昨年10~11月には約9兆円に及ぶ為替介入を実施している。さらに今回、勝氏の信認の厚い松尾氏を為替市場課長に据えることで、円高阻止への態勢を強化した。

 財務省は15年ぶりの悲願である消費増税を危うくする円高は、断固として阻止する構えだ。
(文=森岡英樹/金融ジャーナリスト)

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