(朝日新聞出版/ジョン・ハイルマン)
キーワードとしたいのは2つ。「お金」と「サンディ」である。
●お金がなければ始まらない
まず、大統領選挙の行方を左右するのは「お金」なのだということだ。両陣営が今回の選挙のために確保した金額は、まさに天文学的なもの。各メディア報道によってその推定額は異なるものの、オバマ陣営でおよそ20億ドル。日本円に換算して約1590億円ほど。ロムニー候補も9億ドル、日本円で700億円以上と、驚くほどの水準に達している。しかも両陣営を経由せずに、直接支援者より支出される資金も多いといわれ、実際に投入された金額は、これら両陣営が発表した金額を大幅に上回っているのである。
両陣営ともこの莫大な資金を存分に活用。特に多額の経費を必要とするテレビCMへの注力はすさまじく、毎日とてつもない量のCMがオンエアされ続けたのである。これは政策や実績などよりも、まずは何より顔と名前を知ってもらわねばならないということであり、これがひいては両候補、そして両夫人のファッション・チェックなど、日本の選挙ではあまり取り上げられない点までが一般視聴者の話題となることにつながっている。このように、何より知名度と認知度が最優先。そのためにはテレビが一番、となると重要なのはやはり資金力。こういう図式である。
実はこの傾向は、前回の大統領選挙のときから特に激化していたもの。当時のオバマ候補は「CHANGE」「Yes,we can」というキャッチフレーズと共に当選を果たした。当時の陣営はツイッターやフェイスブックなどを有効利用して、特に若年層への訴求に役立てたといわれた。しかしインターネット経由の選挙活動は、ともすればその対象が未成年や移民など選挙権がない層にも届く。もちろん海外からの閲覧者も同様だ。実際の投票に直接結びつくかどうかは、やや疑問であるといえる。
ところがオバマ陣営は、このような新手法はあくまで知名度と、何より資金集めの手段として割り切り、結果手にした莫大な資金でのテレビCM攻勢により勝利を手にしたといえるのである。そして4年後の今回も、オバマ陣営は同一路線を踏襲。若年層への訴求を増やすとともに、資金調達の大きな柱として活用し続けた。それが結果として巨額となり、金融関連の実業家、ハーバード出身というコネを利用して、やはり巨額の資金を集めたロムニー候補をも凌駕することとなったのである。
かように大量に放送され続けたテレビCMだが、その内容が対立候補の誹謗中傷であることも多々あり、多くの視聴者が辟易していたもの確か。YouTubeには、小さな子供が「もう候補のCMを見たくない」と泣き暮れる動画がアップされるなど、いささか行き過ぎとも思えるほどの加熱ぶり。
それでも両候補はテレビCMによる有権者への訴求をやめることはなかった。これはある意味有権者を馬鹿にした行為のようでもあるのだが、結果を求めるならば、何はなくともまずは量。多少の品質向上よりも、量を増やすことで問題を解決しようとするのは、ファーストフードや自動車や家電などの広告/宣伝にも見られる、大量生産/大量消費を地でいくやり方。「米国では、これが一番効果的」ということの表れであり、典型的な米国的手法であるといえるだろう。
●サンディ+サンディで、支援者が寝返った?
選挙直前に東海岸を襲ったハリケーンの影響も大きかった。史上最大規模ともいわれた大型のハリケーン「サンディ」が東海岸を直撃したのは、選挙直前の週末。サンディ(日曜日)にサンディがやってきたわけだ。特に海岸沿いの被害は甚大で、現在も多くの人々が避難生活を強いられている。ハリケーンの接近に伴い、ニューヨ-クマラソンやハロウィン・パレードなどのイベントが軒並み中止。当然選挙戦も一時中断した。ところがオバマ陣営は、大統領という立場ゆえに、選挙戦が中断している間も、テレビでその姿を視聴者へ送り続けることができたのである。