広大な国土を保有する米国ではあるが、海岸線はその東西のみ。太平洋と大西洋に面している部分だけが海岸線となり、国土に対して、その距離は意外なほど短い。そして、海岸沿いは自然と富裕層の別荘地となっており、サンディの被害が大きかったニュージャージー州の海岸エリアも同様。ここに大きな被害が出たことで、富裕層といえども公的機関からの支援が必要になった。
ロムニー候補は、「このような場合であっても、連邦政府は手助けすべきではない」という主張を繰り返してきていた。そのため、今回のハリケーン被害で救済が必要とされる人々の中にも富裕層が多く含まれていたことで、本来ロムニー候補の支援者であるべき人々が、結果として「寝返った」ことも彼の大きな敗因の一つとなった。
しかも運の悪いことに、ニュージャージー州のクリスティ知事は、ロムニー候補の有力な支持者。しかしサンディ被害の救済においてオバマ「大統領」と会談を重ね、救済措置などを協議。その対応への高い評価を口にすることとなり、結果オバマ「候補」の評価は高まるばかり。テレビを通じてあらゆる層にその奮闘ぶりは伝えられ、視聴者への好感度は高まるばかり。加えて、そこに資金を投入する必要はなかったのだから、オバマ候補にとっては願ったりかなったり。ここでもまたキーワードは「テレビ」だったのだ。
対するロムニー候補はテレビに出演することすらままならず、しかも投票日直前の週末であったということもあり、オバマ優勢の流れはさらに加速、勝利に大きく貢献することとなったのである。
さらには、デモ活動が注目を集めたウォールストリート地区の人々の投票行動に対しても、結果としてサンディが影響を及ぼしたとみられている。99%の人々が1%の層に搾取されていると声を上げた、このデモ運動。ロムニー候補自身がその1%に属する特権層ということもあり、そもそも反対派のやり玉に挙がってはいたのだが、富裕層が多く住むウォールストリート地区も停電や浸水などで、そこに住む人々の被害も甚大。停電が続いたことで業務に支障を来した企業も多く、もしロムニー候補が大統領になった場合、「自分たちが99%の側になってしまうかもしれない」と懸念を感じた富裕層も多かったようだ。
また、オバマ陣営はニューヨークでの勝利を確信した後は、被災地の「支援」を目的として、陣営のボランティアスタッフを被災地の近隣都市に派遣。その理由はもちろん、接戦の地区でのより一層のてこ入れに他ならない。まさにハリケーン・サンディ「さまさま」であったことだろう。
「お金」と「サンディ」。
この2つの要因こそが、今回の大統領選の勝敗を決定付ける大きな要因であったことは確かだ。こういう点もまた、米国社会の面白いところである。
(文=田中秀憲/NYCOARA,Inc.代表)
●田中秀憲(たなか・ひでのり):NYCOARA,Inc.代表
福岡県出身。日本国内で広告代理店勤務の後、99年に渡米独立。04年、リサーチ/マーケティング会社、NYCOARA, Inc.を設立。官庁/行政/調査機関/広告代理店などのクライアントを多く持ち、各種調査や資料分析などを中心に、企画立案まで幅広い業務をこなす傍ら、各メディアにて寄稿記事を連載中。小泉内閣時代には、インターネット上での詐欺行為に関するレポートを政府機関に提出後、内閣審議会用資料として採用され、竹中経済産業大臣発表資料の一部となった。